乱読のセレンディピティ 外山滋比古 著

読書論

乱読のセレンディピティ 外山滋比古 著

知の巨人が説く読書のコツ

本書は「知の巨人」と言われている外山滋比古氏の著作です。

氏は「思考の整理学」など30年以上に渡り読み継がれている本の著者としても有名で、
その考え方や著作などの実績から「知の巨人」と呼ばれているとのことです。

そんな知の巨人が書いた読書論であれば、相当厳格なものが書かれているに違いない!という
期待と怖れの混じった気持ちで手に取った本書ですが、やはり偉人だからなのか、その読み方
は脳の欲求に素直に従う読み方のようにも見えてきます。

圧倒的な知力を持つ著者がそこまでに至ったのは、この脳が求めるままに進める読書が
役立ったのか、あるいは知力を鍛えた後に編み出した読書法なのか。

何れにせよ、この読み方は「セレンディピティ=思いがけない発見」ができるようです。

著者についてと本書の概要

著者について

まず本書の著者について確認です。

外山滋比古(とやま・しげひこ)
1923年、愛知県生まれ。お茶の水女子大学名誉教授。
東京文理科大学英文科卒業。雑誌『英語青年』編集、東京教育大学助教授、お茶の水女子大学教授、昭和女子大学教授を経て、現在に至る。文学博士。
英文学のみならず、思考、日本語論などさまざまな分野で創造的な仕事を続け、その存在は「知の巨匠」と称される。
著書に、およそ30年にわたりベストセラーとして読み継がれている『思考の整理学』(筑摩書房)をはじめ、『知的創造のヒント』(同社)、『日本語の論理』(中央公論新社)など多数。

-本書奥付より引用-

一部の読書習慣がある人にとっては有名人過ぎて今さら感が否めませんが、改めて略歴を確認
すると、”30年以上もベストセラーとして読み継がれている”本を出したという、桁外れの実績
が目を引きます。
知の巨匠と称されるように、まさに言語の専門家、そして言語を使って行う思考の達人とも
言えるでしょう。

そんな著者が思考の外部入力のような「読書」についての本を書いたとあれば、
読書家を自認するものとしては読まずには居れません。

 

本書の概要について

本書が何を言っているか一言で言えば
「とにかくたくさん、面白いと思ったものを読め」と言う事です。
特に刺さったのは、「つまらないと思った本は途中で読むのをやめて捨ててしまえ」。

著者も「本に読まされてはいけない」と言うように、読書とは主体的な知的活動であるべきと
言います。

自ら興味のある分野について主体的に知識を取りに行ってる活動なのだから、
そこで本に読まされる、つまり興味を失った(つまらない)本を、なおも我慢を続けて
読了を目指すと言う時間の浪費は本末転倒であるということです。

それよりも、なぜつまらない本を選んでしまったかを反省し、面白い本を選べるように以降の
本選びに役立てるべきなのです。

もうこの考え方に触れた時には、殴られたような衝撃を受けました。
本を途中で投げ出すべきだなんて。

そのようにできるためには、身銭を切って本を買うことが必要だとも言います。

もらった本や借りた本(タダで手に入れた本)は、まず読もうと言う気が持ちにくくなり、
結局積ん読化しがちです。

それに知っている人が書いた本をもらう(興味がないのに)と、その著者の人となりが
チラついて本そのものの記述に集中できず、不健康な読書となってしまう。

もし、つまらないと思った時、捨てられなくなるのではいけません。
だから本は身銭を切って買うのが良い、と言うことになります。

このほか、読書をより充実した活動にするために役立つ考え方や、日本語を読み取るための
訓練(アルファ読みやベータ読み、と本書で読んでいるものなど)について、目から鱗が
落ちるような記述がたくさんあります。

さすが言語の専門家、知の巨匠といったところです。

読後感や感想など

読書が好きな人は「読書論」的な本も色々読むと思いますが、本書の内容はそれら読書論とも
また一味違った斬新さと言うか、自分に素直に読もうよ、と言う姿勢が感じられました。

人によって読書論が違うように自分に合った方法を選んで読んでいくことが、
本書でのテーマである「セレンディピティ」を引き起こすコツなのかもしれませんね。

本書を読んでよかったと思うのは「身銭を切って本を買え、その理由はこうだ!」と
言うのが明確になったことと、我慢してつまらない本を読むなと言うことの2点ですね。

そう言ういわば読書に関するワガママと受け取られかねない本音の部分を、「知の巨匠」が
本に書いて出版してくれたことが大きな意義だと私は個人的に思っています。

日々苦行のような読書を強いられている不本意な読書家への救いともなりうる、さすがは
「知の巨匠」だ!と言いたくなるようなそんな一冊でした。

『思考の整理学』の印象(難しくて読みにくい)とはガラリと変わって、一種のエッセイ的な
体裁の文書だったのも、すんなり入って行けた理由かもしれません(『思考の整理学』は本書
の考え方に従って読むのをやめました。捨ててはいませんが。難しかった)。

表紙の蛍光色を使ったデザインなど、ある意味で読書に関する固定観念を壊しにきている、と
言ってもいいような本でした。

 

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