人工超知能 〜生命と機械の間にあるもの〜 井上智洋 著

「人工超知能」 -生命と機械の間にあるもの-

人工知能を理解するための哲学的アプローチ入門書

人工知能(Artificial intelligence、AI)とは何か?

よく耳にする言葉ですが、その中身についてはほとんどの人にとってブラックボックス状態
ではないでしょうか?

私も理系分野の出身とは言え、情報技術分野に関しては苦手意識があり、これまで触れない
ようにしてきたところもあります。

ところが世の中、生活に関係する分野でも「AI」の応用がされ始めてきた状況の中で、
もう「そんなのはIT屋の仕事だ」と言って逃げていられなくなります。

かつてコンピューターを使う人のことを「オタクで変わった人」と認識していましたが、
今やパーソナルコンピューター、PCを使うことは生活の一部となっています。

それと同じ様にAIやその構築手段であるプログラミング、そして人工知能に応用するための
人間の知能そのものを考える学問(=哲学)でさえも、既に人類共通の必須科目となりつつ
ある社会が到来していると言えるでしょう。

そのような社会が到来したとき、隷属する側になるのか、または自分がコントロールする側に
なるのか。それを決めるのが、今から始めるAI関連分野の知識および技能の習得です。

本書はそうしたニーズがある中で、「AIとは?」を考えるためのツールを提供し、そもそもAI
とはどんなものなのか?から解説している入門書のような本です(私の印象です)。

AIに哲学。アレルギーが出そうなタイトルですが…

新しいテクノロジーやそれを応用するための倫理的問題に触れるとき、どうしても
「AI」「哲学」という、いかにも小難しそうでスパッと答えの出なさそうな領域のワードが
出てきてしまいます。

私はある意味変態で、むしろ哲学とかそういうのに惹きつけられる習性があるため
「うへへ、哲学とAIうめぇ」となるのですが、大半の人はそうはなりません。

この本はそういう一般のまともな人向けに、これから世の中を便利にしていくAIという技術、
そしてAIを応用する時の哲学的問題について、考えるきっかけを与えるものです。

内容として、やや難しい技術的な説明や哲学的議論がいくつか散見されますが、Amazon等の
レビューでは、おそらく同業者(哲学分野のライバル的な研究者?)が本書の主張を否定して
いたりしますので、そこまでは素人の我々は立ち入らずとも良いと思います。

あくまでも、AIを駆使する為に事前に考えておかないといけないことを知る、という姿勢で
本書を読まれると、そこまで頭が痛くならずに読めるのではと思います。

私はそもそもAIについては、なんか人間の代わりに条件付けして判断するプログラム、程度に
しか理解していませんでしたので、本書による「AI導入における哲学的課題」の紹介として
読んだ場合には、大変興味深く、また学びが深まったなあという実感が得られました。

AIを作るには《人間の解明》が必須

AIとは、まさに「人工」の「知能」なわけです。

そもそも「知能」というものの定義がどうにもこうにも、確定的なものが打ち出せない今、
それを人工的に模倣しましょうと言ってもなかなか困難というもの。

だからこそAI研究者(計算機学とか脳機能科学、認知心理学など)は、自分の専門分野を
深めていき、その研究成果を人工知能に反映させていきます。

でも、人間なら自分の価値観に照らして例外的とも言える判断をすることができますが、
ただ単にプログラム上で反映させるだけでは、例外的な判断(例えば条件通りに行動すると
人に危害を加える恐れがあることなど)ができなくなります。

そんなときに、人工知能へ組み込む条件のようなものを追求する「哲学的な議論」が必要に
なってくると言えます。

これらの研究分野はいずれも、(乱暴にざっくり言えば)人間がある条件下でどのように
振舞うのか、を研究する分野です。

そしてその振る舞いをプログラムによって再現しましょうということ(と、理解してます)。

個別の研究分野をみるだけでは、例えばコピューターの処理能力を高める研究かなとか、
人間の脳の機能を調べる学問、そして人間が物事をどう認知しているのかの学問、です。

それら専門分野ごとに細切れの学問を統合して人間の知能のような振る舞いができるもの、
すなわち人工知能を作るための研究として統合する際にも、各々の研究分野の情報が互いに
うまく噛み合い、さらに人間らしい(これも非常に曖昧でいやらしい概念です)何かを付与
するために、哲学的なアプローチ(哲学という答えのない問題を追求し続けること、これは
数学的処理を行うプログラムには難しいはず)が必要とされてくるのです。

だから単純に機械(ハード)面の充実が即人工知能の実現にはならないのです。

最後の「画竜点睛を欠く」状態にならない様にするための、哲学的議論。
そんな人間らしい葛藤や答えのでない問題への追求、この曖昧な要素を付与することこそが、
最後の最後に人工知能が知能たり得るかどうかの境界になる、そう思います。

まあ、哲学とか難しいから…

私はこれから生きていくにあたり、人工知能の問題点が心に引っかかって本書を読みました。

SFじみてはいますが、いずれ発展したAI自体が、自らの報酬系を作り替えて、独自の報酬を
生み出したとすると、そこから報酬を得る為に暴走しうる…まるで今の人類が自然を破壊し
続けるかのような状態に至るのではないかという危惧です。

もちろん、超頭の良い天才たちが作っているのだから、その辺の対策はもちろん行っている
でしょう。

しかしそれが今、どの程度まで進んでいるのかを知りたくて本書を手に取ったのでした。
決して自分で研究しようとか、AIを作ってみようとか思ってのことではありません。

だから、もしこの手の本を読む機会があったとしたら、AI研究者やエンジニア出ない限りは、
気楽に流し読む程度の気持ちで読むことが有意義なのではないかと思います。

ただ、まったくAIとか関連する哲学的議論、倫理的問題について無頓着というのは、時代に
取り残されたり一方的に搾取されてしまう側になる危険性があります。

今のうちから、ぜひこうした分野にも関心を持ち、自らの好奇心を満たしつつも、新しい
テクノロジーに興味を持って活用して行ってほしいと思います。