魂の駆動体 神林長平 著

小説

魂の駆動体

車好きの魂をまさに”駆動”するお話

SF好きの方にはよく知られている作家さんの小説とのことですが、私自身はSF的な小説を
食わず嫌いで避けているところがありました。

元々、理工系で機械工学を学んでいたせいなのか、ぶっ飛んだ空想の科学技術を見聞きする
と、なんかゾワゾワして不快な気分になったものでした。

そんな私がなぜ読もうと思ったのかというと、これまた読書がお好きな方にオススメされ、
「車好きなアナタならきっと楽しめる」ということで読むことにしたのです。

それで読んでみたのですが、まさに魂を駆動するものでした。

本書の表紙の絵には1人か2人乗りのオープンカーが描かれています。
やっぱり車好きが行き着くところはオープンカーなのか、と読後の余韻に浸ったものです。

 

ちょっと未来のお年寄りのお話

車とSFなのに、出て来る人がお年寄りの男性2人…というところが意外です。

詳しくな読んでいただくとして、忘れかけた夢やすでに諦めていた憧れの存在を、時間が経過
したあとの大人になった自分の知識や経験で復刻する、というようなお話です。

だからこそ、若い人に読んでもらって、夢とか憧れは将来のものではなくて今すぐ叶えようと
してほしいなあとも思うのです。

この本には行動へ掻き立てる何かがあります。

でもビジネス書とか自己啓発書のようなギトギトした、著者の「儲けたい気持ち」が見え見え
の雰囲気ではない、さわやかなものが作品全体を覆っている感じです。

小説がすばらしいのは、私たち読者が未体験のことでも、登場人物、特に主人公が代わりに
体験してくれる「代理体験」の経験ができるところでしょう。

そのためリアルにそのイメージが脳内の繰り広げられ(イメージが苦手な場合には、たくさん
小説やマンガを読みましょう)、実際に自分が行動したかのような経験ができます。

実際、脳にとってはイメージも実体験も区別が付かないとも言われています。
そんな強烈な代理体験を私にもたらしたこの本は、タイトルがまさに的を得ているんです。

車好きなたほぼ確実に、そうでなくても何か行動しなきゃと思っている人にとては、その
行動のきっかけとなりうる、この本自体が「駆動体」になるのです。

 

本書を読んだ後の生活の変化

この本を読む前、「まあSFだしぶっ飛んだ車の話かなんかでしょ」「ちょっとでも面白いって
思たら儲けもん」だわ的な、ほとんど期待せずに読みはじめた一冊でしたが、読み終わったら
なんと私の所有する車が変わりました。

三菱のランサーエボリューション10という車に憧れて乗っていたのですが、その憧れの車より
魂を激しく揺さぶる車があることから、目を背けることができなくなってしまったのです。

本書読了から時間は経っていましたが、様々な葛藤を乗り越えてランサーエボリューションを
売却し、その足で軽くて小さなオープンカー、ダイハツのコペンを購入したのでした。

ランサーエボリューション、いわゆるランエボですが、これは確かに速くてすごい車です。
車好きの少年が憧れるに決まっています。
憧れる人が多いので、この車に乗っていること自体が喜びなわけです。

ところが、車が良すぎでぜんぜん自然の風を感じられないんですね。

窓を開けたりすればよろしいでしょうに、といいますが、それではまだ車に”守られている”。
私はランエボに乗り続けているうちに、モヤモヤとしたなんとも言えない不完全燃焼感を
抱くに至ったのです。

そこへこの本。『魂の駆動隊体』です。
私の錆び付いた魂をまさにオーバーホールして駆動させ始めたのがこの本。

読む前の舐め腐った態度を大いに反省し、この本のおかげで経済的にも車の維持運用が楽に
なった上で、ドライビングプレジャーを強烈に感じることができるようになったのです。

ですが、この本を読んだだけで一気に魂が駆動されたのかというと、そうではありません。

私は元々小型で軽く、省エネルギーで使い勝手がいい車が好きでした。
つまりイギリスのローバー・ミニがドンピシャだったのです。

そして本書内では、登場人物たちが参考にした本が「ミニ・ストーリー」であり、そこでこの
本を存在を知って購入したのです(絶版本のためやや高めでした…)。

現行のミニシリーズはドイツのBMWが作っているので、イギリス車の軽量かつ運動性能がいい
という特徴が見事に失われ、高出力でずんぐりムックリな大きな車体、巨大なミニという、
私に取っては醜い姿となってしまっています(あくまで私の”好み”の問題です)。

そんなミニではなく、昔からあってほとんど最初の設計から変更点がない、完成された形の
イギリスのミニを経て(本書でもイギリス製のミニを参考にして)、作品中では理想の車を、
現実世界では私の理想の車を、手に入れるに至ったわけなのです。

本書を読んでみんながみんな、オープンカーに目覚めるわけではないでしょう。

しかし車好きな人、車に少しでも興味がある人がよんだのなら、私のように「自分の中」の
理想の車を手に入れようという気持ちがムクムクと湧いて来るのかもしれませんよ!

まさに魂を駆動せしめる強力な物語でした。

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