ポリアモリー 複数の愛を生きる 深海鞠絵 著

宗教・思想・哲学

重要な視点を提供してくれる一冊

誰もがこうした問題で悩むわけではないのかもしれないけれど、きっと同じようなことで悩んでしまう人もそれなりにいるんじゃないか。そう思ってなんとなく検索した時に見つけた本。

見つけた時、やっぱりあったと思った。

社会的には結婚という制度があるほど、一対一の関係が基本であり、ここから逸脱することは倫理的に非常に問題があるとされている。

一方、人間は複数の異性と関係を持つことを前提に進化したから生殖目的ではない行為を行う、などという説もあったりなかったりする。

きっと人間の性質として持っているものをそのまま許容してしまうと、種全体としての利益が最大化できないから一対一の関係性に限定する制度が確立されているのだろうと思う。

そんな、読む前から色々と考えてしまう本。

 

対複数の関係の実践

ポリアモリーという用語はあまり馴染みのない言葉だと思う。

この言葉が意味するところは乱暴に行ってしまえば複数の相手と関係を持つことである。

一般論としては倫理的にアウトなやつである。

だが、いわば禁忌とされている関係を構築することを宣言し、それを実行している人々がいるというのは非常に興味深いことでもある。

この本を手に取った時に思い浮かんだのが、彼女が80人いたという岡田斗司夫氏だ。

彼のことはよく知らないけれど、このことについて語る動画を視聴したら彼なりに誠実に関係を持っているようだった。

かつて配偶者だった方とも離婚はしているが現役の彼女として付き合っているようだし、複数の関係を持つためなのかはわからないが、貞操義務がある婚姻を解消してまで現在の状態にいるのだから、それなりの覚悟もあったのだと察せられる。

 

誰もが実践できるかは別問題

私個人としては、好きなものはしょうがないと思うが、自分のパートナーが複数の相手と関係を持ち、私もそのうちの一人だったとしたら、それはなんだか複雑は気持ちにはなる。

なるけれども、時系列で見れば、結果的に複数の相手の中の最後の一人(関係を継続している時点では)となるわけであるから、もしかしたらその時間感覚を一旦外してしまえば案外受け入れられるのかもしれない。

逆に私自身が複数の相手と関係を持つのだとしたら、それはそれで疲れてしまいそうだ。

そこまでの甲斐性もないだろうし、どうしても関係の濃淡には偏りが出てきてしまいそう。

もしも倫理的にも法律的にもこれが許容されるとしても、私は実行しないだろうとは思う。

だが、こうした関係性を受容する雰囲気が社会にあったとしたら、それはとても気持ちが楽になるし、もしかしたら結婚に対するプレッシャーも軽減されるのかもしれない。

 

現行制度下での苦しみの一例

私個人としては結婚するときにはマリッジブルーというやつになった経験があり、何度も結婚するのをやめようと思った経験がある。

毎日100回くらい婚約破棄したいと言おうと悩んだくらい。

その理由はお金のことや子供のこと、将来のことなど色々とあったが、一番下衆な理由だが最も感情的に引っ張られたのは、もう他の異性と性的な関係を持てないんだということ。

そのせいで、これまでそんなチャンスもなかったくせに、ひどく絶望的な気持ちになったこと。

結婚前は可能性が低いにしてもゼロではなかったものが、今後一切なくなる、ゼロになるということに耐え難い苦痛を感じたのだった。

自分自身もこれが理由の最も大きな部分を占めていることに呆れ、こんな理由は認められないし、マリッジブルーなんてみんな乗り越えるものだ、と無理矢理ねじ伏せて結婚してしまったのだった。

結果的に別の理由で離婚することにはなったが、離婚できたときにはなんとも言えない解放感というか、人生を取り戻した実感があったのを覚えている。

結婚自体が社会的に優遇される制度ではあるが、実際に結婚することは生物としての尊厳を奪われるような苦しみが私の場合には伴った。

それはもしかしたらポリアモリーを許容する社会なら、解消されるか軽減されるかもしれない性質のものでもあった。

だから本書を読む前にはかなり期待感が高まっていた。

 

本書の内容

肝心の中身については、著者がポリアモリー実践者のコミュニティーに入って生活を共にするなかでインタビューしたり情報収集を行う様子が描かれている。

それらを通じて著者の考えや感じたことなどが記述されていく形。

本書を読んでそこまで感銘を受けたかというと、実はそこまででもない。

取材先が日本ではないということも、当事者意識を持って本の世界に没入しきれなかった要因かもしれない。

私たちが所属する社会においてポリアモリー実践者がいるというのなら、その意外性やいろいろ面倒臭い日本社会での実践における苦労なども共感しやすかっただろう。

それに自分が同様の問題を抱えた時のヒントとしての活用もしやすかっただろうと思う。

 

本書の存在意義と読後に受けた感覚

だからと言って本書の価値が下がるわけではなく、一対一の関係を基本とする社会において、複数の関係を同時並行に構築してそれを維持することを実践している人々の状況を発信することは、とても意義のあることだと思う。

私自身、本書を読んで救われた一面もある。

人は必ずしも一対一の関係に縛られる必要はないのだ、という思考の鎖を解くことはできた。

それと同時に複数の関係を同時にもつことの現実的な問題なども知ることができた。

今後一切、ポリアモリーのようなことがないとは言えず、もしかしたら自分もその一員になる時がくるかもしれない。

その時に役立つ情報としての価値もあるし、なによりこういう在り方もあっていいんだと思えたことが、私にとって感情的な部分で大きな慰めとなったことは否めない。

むしろ複数の愛する人が存在する中で、一人に絞って他を切り捨てる必要がないという可能性を感じられたことは、心の深い部分にある希望のようなものが救われたようにも思えた。

それは結局、決断することのできない弱さを、弱い者同士で傷の舐め合いをしているだけなのだとしても、それが救いとなるのならば肯定してもいいのではないかと思う。

ポリアモリー複数の愛を生きる
深海菊絵 平凡社 2015年06月17日頃
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