志村流 遊び術 志村けん著

志村流 遊び術 (マガジンハウス文庫)


亡くなって改めて思い知らされるこの人の偉大さ

本書は2004年に発行された単行本を再編集して文庫化した本とのことですが、この本が今の
タイミングで文庫化された(2020年7月9日 第1刷)のは、やはり偉大な天才的人物の影響が
大きいのかなと思いました。

私自身の幼い頃(幼稚園〜小学生くらいまで)のヒーローといえば志村けんでした。

若い人は知らないかもしれませんが、「けんちゃんラーメン」という志村けんの演じるキャラ
を具にプリントしてあるカップラーメンがあり、これはほぼ毎日食べていた記憶があります。

そしてフタだかシールだか、何かを集めて送ると、「けんちゃんラーメンのボールペン」が
もらえる特典がついていました。

そんなボールペンを5~6本は持っているくらい(まだ字が書けないのに)、志村けんのファン
だった子どもでした。

子どもの時から志村けんのファンである、ということは学校などではあまり開示することは
なく(お笑い方面の話ができる友人が皆無)、かなり濃い趣味でもあったようでどちらかと
いうと迫害さうるような価値観でした。

幼稚園で「変なおじさん」踊りをしていたら、親が呼び出されてなんかわからないけれど
叱られたという経験も影響しているかもしれません。

子どもは自分が理解できない価値観については迫害していくものです(大人もそうかな?)。

そんな状況でも当時放送されていた志村けんの番組はほぼ網羅していたはずです。

カトちゃんケンちゃん、志村けんのだいじょうぶだぁ、バカ殿様など、父親はそういうのを
見せたくない(下品な表現が盛り沢山のため)ためにチャンネルをかえてしまうのですが、
志村けんの番組の時には全力で反抗してチャンネル主導権を取り戻そうとしたもです。

当時は自分の完成に深く響いて非常に面白い、という感覚でしたが、こうして著書を改めて
読み直してみると、本当にしっかりとした軸を持ってお笑いを追求した人なのだなあと
心から尊敬してしまうのです。

これまで著作を読んだことはなかった

この人がコントなど表に出ている部分以外を視聴者に見せない、感じさせないところが
完璧だったせいか、私もかなりディープなファンだったと自負している割には、本を出して
いるとか他の活動は何をしているとか、全くしりませんでした。

思い返してみると、本当に徹底して芸の道を突き詰めていたのだなと思います。

本書をこの方が亡くなったタイミングで読んだことも、より一層過去の記憶の美化が
なされてしまっているでしょう。

この本を通じて志村けんの人となりの一端を垣間見ることで、今の私自身が目指している
生き方を、そのまま体現しているかのような生き様だと感じました。

仕事=遊び=好きなこと

今でこそビジネス書などでライフワーク的な価値観を推奨する本が増えてきましたが、本書が
最初に世に出た頃(2004年)、私はまだ社会に出てなかったからかもしれませんが、仕事で
好きなこと=遊びとする、という価値観は知る由もありませんでした。

確かに好きな要素がある仕事をしよう、という雰囲気はありましたが、やはり仕事は我慢して
その我慢料としての給料をもらうんだ、という暗黙の了解を感じていました。

この一つのエピソードだけでも、この人が本当に仕事を遊びのように楽しみ、そして創造的な
成果を上げていくことの裏付けになっているといえます。

この人にとっては毎日のあらゆる出来事、経験が、全て仕事(表現すること)に直結すると
理解していて、その上で意識的に新しい刺激を常に求めて動いていることも特筆に値します。

遊びに汚いとか綺麗とか、私のようなあまり本気で生きてこなかった人間にとっては、もはや
理解の範疇を超えている概念です。

しかしそれでもなんとなくこういうこと、と言うふうにわかるような言葉で書いてくれます。
例えば遊びに汚いの例としてお金について卑しさが出るとか、直感的なことです。

でもこうしたことは、たくさん遊んで、危険な目にもあって、そういう広い経験を経たから
こそ言える内容です。

元教員だった私の経験上、この人のような教員になれたらきっと生徒たちの人生にプラスの
影響を与えることがもっとできたであろうと思うことがたくさん書かれています。

やはり人間として熟成し、自分自身としても満足する生き方を実現するには、まずは遊びにも
真摯に向き合って、そこから人間同士の妙のようなものを学び取っていくことが大切なのだ、
という感想を抱きました。

「みそ汁」を例えにした人間形成の話

この本で私が秀逸だなと思わず膝を打った内容に、人生を「みそ汁」に喩えた話があります。

詳しくは本書を読んでいただくとして、「良い顔」の人間になっていくには、やはり教養や
経験などが大切だと説くのですが、やはりそれだけではみそ汁は味わい深いものにはなり得ぬ
ものなのだ、と直感的にわかります。

この「みそ汁」話、もしかしたらガチの志村けんのファンの方にとっては周知の事実だったと
したらとてもお恥ずかしいことですが、私はこの人のことを何も知らない状態で、ただ楽しん
でいただけの時間を過ごしたあとにこういう話を知ったせいか、本当に琴線に触れるような、
深い感銘を受けたのでした。

まとめ

なんか下品なコントとかやっててあんまり得意じゃないのよね…という反応を、私自身は
彼の真似をしたりするときに言われたりしてきました。

しかし業界の中では、「きちんとお笑いを追求してるのは志村けんしかいない」と言われる程
本気の求道者でもあった方。

コントは人を笑わせるものですから、時には品のないふるまいのように受け取られてしまう事
もあったかもしれません。

それでもこの人がたくさんの人に慕われて、私のようにろくに物事の判断もできないうちから
虜になってしまうほどの笑いを作り出すことができた人です。

子どもを笑わせて、かつ大人も楽しめる笑いを作り出すことは並大抵のことではありません。

ご本人が語った言葉をお笑い要素抜きで真摯に読み込んでいくことで、「総合的に良い人生」
とも言える人生を送るためにはどうするのがいいのかが、この本によって大きなヒントが
得られたように思いました。