自動車の社会的費用 宇沢弘文 著

宗教・思想・哲学

自動車の社会的費用 宇沢弘文 著

便利さと社会的コスト

個人的な便利さと社会が被る費用のバランスを考える本。

本書は1974年に初版発行されて以来、40年以上も読み継がれている名著。
もはや古典的名著といってもいいほどの時の試練を耐え抜いてきています。

経済学を学ぶ学生にとっては必須、そうでなくても社会に生きる者として一読の
価値が大いにある、そんな本です。

 

著者について

宇沢弘文

1928年鳥取県に生まれる
1951年東京大学理学部数学科卒業
現在−日本学士院会員、東京大学名誉教授
専攻−経済学
著書
『近代経済学の再検討』『経済学の考え方』『「成田」とは何か−戦後日本の悲劇』『地球温暖化を考える』『日本の教育を考える』(以上、岩波新書)
『ケインズ『一般理論』を読む』『近代経済学の転換』『現代経済学への反省−対談集』『現代日本経済批判』『公共経済学を求めて』『「豊かな社会」の貧しさ』『経済解析−基礎編』『二十世紀を超えて』『地球温暖化の経済学』『宇沢弘文著作集−新しい経済学を求めて』(全12巻)『算数から数学へ』『好きになる数学入門』(全6巻)(以上、岩波書店)
『現代を問う』『経済動学の理論』(東大出版会)ほか
訳書
『ロビンソン現代経済学』『ボウルズ=ギンタス・アメリカ資本主義と学校教育』(Ⅰ・Ⅱ)(岩波書店)

-本書奥付より引用-

 

大まかにいうとこんな内容

自動車は現代機械文明の輝ける象徴である。しかし公害の発生から、また市民の安全な歩行を守るシビル・ミニマムの立場から、自動車の無制限な増大に対する批判が生じてきた。本書は、市民の基本的権利獲得を目指す立場から、自動車の社会的費用を具体的に算出し、その内部化の方途をさぐり、あるべき都市交通の姿を示唆する。

-本書カバーより引用-

本書では、自動車と言う非常に便利だがそれを利用することによって生じる不利益を、
どのように負担していくのか、と言うことについての考察がなされています。

自動車の普及や道路政策が盛り上がっている時代に、このような市民視点からの問題提起を
堂々と出版という手段で行った本書の意義は非常に大きいものとして評価されています。

2020年現在でこそ政策などのマクロ的視点が必要な判断には、本書のような社会的費用を
十分考慮し、得られる利益と負担すべき社会的コストのバランスが取れるような配慮がなされ
ることは当たり前のようになってきています。

しかし本書出版当時では、人間の生活よりも自動車利用の利便性向上が優先されていくような
社会情勢でした。

そんな時代背景にこのような本を書いた、ということこそが本書が出版された意義なのでは
と思います。そしてこのような本が、今なおその存在意義を失わず、むしろ読まれるべき本
として輝きを増していることに、著者の慧眼を感じるものでもあります。

 

読後感と感想

自動車の利用は私にとっては生活の一部であり、また趣味も兼ねている楽しみの一部です。

そんな自動車を利用する、という行為に対して社会的には見えない部分も含めて膨大なコスト
を負担しているのだ、ということがわかりました。

そして実際に自動車を利用す場面では、そのようなコストを意識しながら大切に利用すること
も含め、自動車以外の道路利用者である特に歩行者に対して十分注意するようになりました。

道路の歴史を辿れば、自動車の登場はここ最近の話であり、それまでは歩行者が中心で、車両
は数も少なかったことからあまり配慮されることがありませんでした。

しかし自動車が登場し、その利便性と普及の後押しによって爆発的に増加し、もはや自動車の
利用に都合の良い道路でなければ社会が立ち行かないところまできてしまいました。

そうなると自動車を利用する側としては、自分たちのためにある道路だから、自分たちに有利
なように使おうとする心理が働くように思います。

事実、歩行者として道路を利用する場合、特に歩道の整備されていない道路や狭い路地などで
危険性とともに強く感じます。

社会として自動車利用に有利になるように作られた道路ですから、そうなるのは当然の誘引が
あるわけですが、本書冒頭でも触れているように、日本の道路は世界でも類を見ないほどに、
自動車有利、歩行者に不親切な道路ということです。

2020年現在ではすでに、そうした懸念が理解されて、徐々にではありますが自動車以外の道路
利用者に対する配慮がなされてきました。

しかし自動車を利用する側の心理状態は、依然として変わっていないようにも感じます。

鉄の枠に囲まれているという安心感が高圧的な態度へと繋がりがちであるという指摘もあり、
その表れとして最近では無謀なあおり運転等も問題になるくらいです。

そうした心理的な面への作用として、本書のような視点の提供が、もしかしたら他社の視点を
想像できる人格の形成の助けになるのではないか、という感想も得ました。

自動車の免許が誰にでも取れてしまう、というのも問題かもしれませんが、本書を読んだ後、
自動車を使う側の審査や免許制度で、安全性が確保できるものに改善していくことも必要なの
ではないかと思うのでした。

 

 

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