本づくりの舞台裏【『「本をつくる」という仕事』稲泉連】

ノンフィクション

「本をつくる」仕事を分解して解説する本

今更感満点だが、例のワクチン接種のため都内まで遠征してきた。

その道すがら、というかほぼメインの目的に成り代わりつつある書店めぐりにて『「本をつくる」という仕事』という本を見つけて衝動買い。

本屋の端くれとして興味を唆られたのだろう。

自分の扱う商材が生まれる過程や、各工程のプロフェッショナルの仕事が解説されている本というのは、もともとモノづくりの世界にいた私個人にとってはこちらの面からも非常に興味深いものだ。

最近本を読む時間がなかったが、予防接種の余韻で気怠い体調を利用して読むことにした。

 

本という形があるから好きだ

本書著者と解説文にあった一文に、とても共感した。

新しくできた本を受け取ったらまず匂いを嗅ぐ、という行為にも激しく共感。

その存在を確かめるというか、存在していることをじっくり味わい認識することが、とても心地よいのだ。

本という物が出来上がるには、これほどまでにさまざまなプロフェッショナルが関わっていること。

一読者としては見えない存在のため注目されることも稀だが、本書ではその一工程ごとに注目して取材しているところが新しい。

これまでにない視点がとても新鮮で刺激的だ。

私もただの一読者から、大人な本好きにレベルアップしたかのように感じる。

電子書籍の誕生と「本をつくる」仕事

電子書籍という形が普及し始める社会において、実体のある「本」を現実世界に生み出す工程を担う人々の存在意義も失われつつある。

しかしながら、さまざまな人の手を減ることによって高品質な出版、間違いのない知識の伝達が担保されていることも事実。

電子書籍の普及が進む中、従来の本作りを担う各職域のプロフェッショナルの参入は、未だ玉石混交な情報源といわれる電子書籍が、本来の『書籍』同様の知的価値を持つものに変わりうるとも思える。

ただ、それらの過程がないからこそ電子書籍はお手軽出版が可能というメリットがある。

必要に応じて手を加える割合を調整できることが、出版の間口を広げることにもつながる。

電子書籍の普及によって出版業界も再び盛り上がりそうなものだけれど、そうはなってないのが不思議なところ。

新しい方法や技術に適応し、発展していくにはまだまだ時間がかかるのかもしれない。

「電子書籍をつくる」仕事への転換

もしも正式な「出版」のプロセスを電子書籍出版希望の個人でも利用しやすいようなサービスパッケージみたいなのを確立できたとしたら。

自費出版よりコストを抑え、かつ、内容が精査された作品を出したいという本気の作家志望者などの需要が発掘できそうな気がする。

というかすでにそんなのは誰かがやっているのかもしれない。

しがない古本屋が思いつくことなんて、とっくに誰かが思いついているのだろう。

だから私はそれを利用する側になりたい。

でもそんなサービスを未だ知らないということは、それほど需要がなく社会に認知されていないということなのか。ただ私が無知なのか。

新しいサービスへの需要は掘り起こし開発していくものだから、こちらも時間がかかるのかもしれない。

動画編集のように、一部のテレビ関係者の独占技術だったものも一般に膾炙されたくらいだから、編集スキルなども今のうちから勉強しておくのもアリか。

本そのものを考えるきっかけとなった本

こんなことを考えさせる本書、やはりこれまでにない視点からのアプローチだった。

本を読むことは当たり前のようにしてきたが、その「本」そのものの生産過程を顧みることがなかった。

ここで本書と巡り会えたことで、出版関連の仕事についての理解が進み、自分が大好きな本、商材として扱っている本に対する理解が、やっと深まったように思えた。

今後は各工程についての詳しい解説書などにも手を伸ばしてみたい。

「本をつくる」という仕事
稲泉 連 筑摩書房 2020年11月12日頃
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