わからないまま襲われる恐怖【宇宙戦争 H・G・ウェルズ】

SFの基本書みたいな位置付けの『宇宙戦争』

SFといえば宇宙戦争という、なんとなくの認識のまま積ん読となっていた本書。

SF小説は完全に娯楽としての読書という認識だ。

どうしても仕事で必要な知識やすぐに役に立ちそうな本を優先して読んでしまいがちのため、積読期間がかなり長かった。

が、読んだ。

フィクションの小説は主人公や登場人物の代理体験を通じて、自分以外の人生という斬新な視点が得られると思ったからだ。

実際どうだったかというと、そんなことを考えずに小説の世界に没入した。

世間では評価の分かれるところではあるが、元々空想科学的な世界観が好きだったりしたせいもあり純粋に楽しめたなあというのが感想。

”火星人”の一般的イメージの原型

この本は原題が「THE WAR OF THE WORLDS」であり、そのまま訳すと「世界戦争」。

実際、内容も宇宙空間での戦闘などは一切なく、時代背景も19世紀の英国だ。

宇宙に人類が出ていけるわけもない。

ではなぜ宇宙戦争となったのかといえば、地上に襲来してくる的が火星人だから。

かなり昔に書かれたSFという空想の物語だから、ツッコミどころはたくさんある。

が、あえてそれを無視して当時の英国在住の庶民だったとしたらという視点で読み進めると、非常によく楽しめる。

リアルな襲撃からの逃走を追体験する気分が味わえる。

なぜそんな気分になるのかといえば、敵が「火星から来た」ということ以外ほぼわからないことばかりだからだ。

どんな存在がどんな目的を持ってやってきたのか。

こちらから排除しようとすると圧倒的火力で一瞬で殲滅させられる。

絶望しかない。

そんな世界。

ただ襲ってきた火星から来た存在、すなわち火星人の外見も説明されている。

その説明の仕方も謎の襲撃者としての不気味さを一層引き立てている。

その後の火星人像として、クラゲみたいなものを連想するのは、この小説での描写を元にしているそうだ。

そのくらい影響力が強かった。

未だに火星人といえば黄色っぽいクラゲみたいなやつら、と思い浮かべるほど。

そう思うとこの小説が世に与えた衝撃はかなりのものだったのだろう。

終わり方もモヤモヤする

結果的に火星人たちは、地球での何らかの微生物か何かによる病気で全滅するわけだが、その理由もよくわからん。

勝手にやってきて人類が皆殺しにされるかもしれない絶望感を感じさせ、ただ逃げるだけしかできない状態に陥っていく。

それなのにいつの間にか火星人たちが勝手に死んでいく。

結局、地球側の人類は、火星人からの脅威に対して何も対処できずにいたことになる。

でも結果的に助かっているという。

なんともスッキリしない話だなあという印象を持つだろうと思う。

私もなんだか、主人公や関係者が逃げているだけのように感じてしまった。

現在の刺激の多すぎる社会に生きているから、この手のストーリーでは刺激が足りないというか、もっと劇的な展開を期待してしまう。

とはいえ、この小説が未だにSFの代表的な作品だといわれているのは、自分たちに何もなすすべがない絶望感の中をひたすら逃げ続けるという、精神を削り続けていく展開が衝撃的すぎるからなのかもしれない。

私個人としては、この本を読まねばと思い続けて数年、やっと積ん読の山から読了の本棚へ移動できるのでスッキリ感はある。

ストーリー読後のもやもや感はかなり残ってはいるのだが。

宇宙戦争

ハーバート・ジョージ・ウェルズ/中村融 東京創元社 2005年05月
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