ビジネス書 大バカ事典 第一版 勢古浩爾 著

自己啓発・ノウハウ系

ビジネス書大バカ事典

ビジネス書への見方が変わる一冊

2010年6月にこんな本が出ていたなんて、当時ビジネス書にハマっていた私の視野には入ってこなかったようです。

今でこそビジネス書のようなノウハウ本をいくら読んでも無駄で、実際に自分が行動して経験を積んでいくことが必須であると理解していますが、行動が伴わない時点で自己成長を指向すると、このような本には出会えないのだと思います。

きっと胡散臭さを感じながらも、「もしかしたら自分も…」という一縷の望みに縋るような気持ちで読み進めたビジネス書。

そんな書籍の1ジャンルに関して、だれもが感じているがそれを認めることができない、認めたくない事実を明らかにしていく本です。

 

ビジネス書のタブーに触れたような本

仕事についている社会人ならきっと多くの人が手にしたことがあるビジネス書。

中にはビジネス上、有意なものも存在しますが、いつしか「だれでも」「簡単に」成功を掴むことができるノウハウ集のような本が溢れるようになりました。

私自信もビジネス書を多く読み、その読後感に浸ってテンションを上げたという経験には事欠きません。

一方でビジネス書を読んで大きな成果を得られたか?と言えば、特定の本の影響である変化が生み出されたということもできません。

せいぜいが多くの本(ビジネス書以外の分野も含む)を読み、その中で自分自身も思考と経験を重ねた上での堅実な成長は認められる、といったものです。

きっと多くのビジネス書ユーザーが同じような体験をしており、一部の「苦労はしたくないけれど成長・成功はしたい」層が、手っ取り早い成功法則を手に入れようと次々とビジネス書を買い求めているのではないかと推測します。

何を隠そう私自身がそういった姿勢でビジネス書を読み、これまたビジネス書の著者たちが年間数百冊も本(ビジネス書の類)を読むというのを真に受けてほぼ毎日書店で購入しては読んでいたという過去があります。

それだけのビジネス書を読んだとしても大きな成功が得られるわけではなく、読後のちょっとした高揚感の心地よさだけが得られ、そして一種の依存状態に陥る。

成長しなければという強迫観念にも似た感覚が、さらに次のビジネス書を購入させていく。

こんなループにハマっていきます。

本書ではそんなビジネス書(もどき)について、多くの読者が勘づいているが口にすることができない、口にしたら心の拠り所を失うようなことを、明確に活字にしています。

やや表現に下品なところもありますが、ビジネス書を読んだ時の正直な感覚を、本書を読み進めていくに従って再び感じられることと思います。

ビジネス書への信頼が揺らいでいる時に本書を手に取ったとしたら、今後いわゆる「もどき」のビジネス書には一切手を出さなくなるのではなかろうか、と思える本です。

 

「成長するには本を読め」の誤解

いわゆる過去の偉人、成功者という人たちは口を揃えて本を読むことを推奨しています。

それを真面目な人は真に受けて、たくさん本を読もうとします。

しかしビジネス書を読み続けてきた私が感じるのは、過去の偉人が推奨する本は、いわゆるビジネス書のようなノウハウを切り貼りしたものではなく、古典や根拠のある研究に基づいたものであるということです。

現代のマーケティングに踊らされてついビジネス書に手が伸びてしまいがちですが、これはあくまで出版社の利益のためにしていることであり、そうしたものに惑わされず、自分にとって本当に必要な知識やノウハウを見極めることが重要です。

そんなことはわかっているという人が大半でしょうが、人は易きに流されるもの。

1冊1時間程度で読み終わってしまうビジネス書は、読み切ったという充実感や、読破した冊数を稼ぐにはお手軽なため、ついつい自分を安心させるために読み進めてしまうのです。

いわゆる自称読書家という人については、1日に何十冊と読むことを誇る人などもいますが、それはビジネス書のようなサクサク読み終えることができる本で数をこなしている、という実情があるのかもしれません。

また、ここ20年ほどで出版されるタイトル数は増えているのに総販売冊数は横ばいが減少しているという現象もあります。

このため次々と類似のビジネス書が濫造され、その内容について深まりが増しているとも思えない現状があります。

かつて書物はとても貴重で、入手自体がかなり困難なものでした。

そんな時代にあって、新しい知見を得るには最も効率的なツールでもありました。

だからこそ過去の人物は本を読むことを推奨し、絶対数が少なかったからこそ何度も読み込み、咀嚼し、行動へと自動的に落とし込むことができたのではないかと考えられます。

故に「本を読め」という指示だけで、繰り返し読み込み、行動へ移し、試行錯誤を重ねて成功へと至ることができたのではないでしょうか。

 

本書が進める読むべき本

このように考えると、人が人として成長すること、様々な失敗や困難への挑戦を経て深みが増す方向へ進むことが、いわゆる成功へのルートになると言えます。

しかし本書では成功など本当はどうでもいいとも言います。

なぜなら成功、と一口に言ってもそれが一体何を指すのかが曖昧で、何となくお金をたくさん得ることのようなニュアンスで語られることが多いためです。

そのため一旦は成功はどうでもよい、という立場に立ち、人間としてどうあるべきかを深めていくことが、結果的にいわゆる成功した状態を生み出すことにつながると言います。

そこで本書では、いわゆる事業を大きくして社会に貢献している企業の経営者が書いた自伝を読むことをお勧めしています。

多くのビジネス書にも共通していますが、いわゆるノウハウはその著者だから成功した方法ということができます。

しかしビジネス書はその著者の背景やなぜそう考えるに至ったのかなどの出来事が書かれておらず、なんとも薄っぺらい印象を拭いきれません。

その点、経営者などの自伝では、ノウハウの伝授というよりはその方の生きてきた主観的な視点を知ることができ、まさに読書の効能である代理体験ができると言えます。

経営者の自伝といえど結局はその人本人の経験であり、その人がそういう経験を経てきたからこそ今があるのだということなりますが、自伝である分、読者である私たちがそのまま真似をしても成功するわけがない、と正常な判断力も維持することができます。

そして私たち自身のものの見方や行動に与える影響は、確実により人間的な深みを増す方向へと変化を促していきます。

下手に「お手軽」「手っ取り早く」や宇宙や神様にお願いするわけではなく、現実に即して地に足がついた状態で、堅実な努力をする方向へと促しうるものであるのです。

本書で自伝を進める理由はまた別に書かれていますが、私自身が本書を読み進める中で納得し、自分なりに経営者の自伝を読むことに対する有意性を考えてみました。

この本は単にビジネス書はキワモノだ、とこき下ろすだけではなく、読書を通じた人格の形成を促すための代替策を提示していることに好印象を持ちました。

このような本が2010年に出ているにも関わらず一向に似たようなビジネス書もどきが減らない、それどころが種類が増えているように感じるのは、それだけ日々の生活を改善せねばという切羽詰まった人が多いということなのでしょうか。

そういう人にこそ、そろそろ事実から目を背けずに、ビジネス書は一瞬の高揚感を得るだけの代物だと気づいてもらい、本人に本当に必要な知識が得られる本や人物に出会って欲しいと思います。

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