運動こそ脳を鍛える最適解【『一流の頭脳』アンダース・ハンセン】

健康

精神科医による脳の取説みたいな本

教育大国スウェーデンの精神科医による、脳のパフォーマンスを向上させるための方法が書かれている本書。

人間が本来はどのような生き方をしてここまで生き残ってきたのか、を考えたら、そりゃ当たり前でしょと言えるような結論ではある内容。

現在を生きる私たちが精神を病みがちになったこと、特に社会のデジタル化が進むにつれ精神的な病や大きなストレスを抱えるようになった原因は、運動しないことにあったという。

 

運動は抗うつ剤かそれ以上

精神科医でもある著者によれば、担当した患者に運動を行ってもらったところ、抗うつ剤を服用するのと同等の気分や精神状態の改善が見られたという。また、精神疾患を患っているわけではない健常な人々に対しても、ある程度心拍数が上がる運動をしてもらったところ、知能が向上することがわかった。さらには認知症の予防にも効果的であることもわかってきた。

知能テストを行う直前に運動をしたり、あるいは運動しながら記憶しようと学習行為を行うと、その成果が向上するということもわかってきた。では、一体どのような運動が効果的であるのか?運動なら筋トレでも有酸素運動でもなんでもいいのだろうか?

 

効果的な運動とは?

本書の実験によれば、脳にポジティブな影響をもたらす運動としては、筋力トレーニングよりも有酸素運動のほうが効果が大きいという結論に至った。

それもインターバルトレーニングのような厳しい負荷をかけるものではなくても、たとえば軽いランニングやウォーキングなどの軽い負荷のもので十分だという。

そうした軽度の負荷のかかる運動を、数分間行うだけでも効果が見られるが、ランニングを45分×3回程度行うことが最も効果的であると言う。

重要なのは、心拍数をあげることとのことだ。

そしてこの運動を、継続することが脳の活性化には重要になってくる。

もちろん一回だけでも効果があり決して無駄ではないが、運動しない状態が続けばまた元の状態に戻ってしまうのは言うまでもない。

だから脳を本来のパフォーマンスを発揮しやすい状態に変えていくには、半年くらいは継続することが重要である。

運動が習慣化すれば、脳だけでなく身体も健康になり、気持ちも前向きになったり活動的になったりするので、すでに運動が苦にならなくなっているはずだ。

クリエイターに太っている人が少ないのは、そうした人々は運動することが、よいアイデアを生むことを習慣的に知っているから?かもしれない。

 

私たちは未だに狩猟採集民族

本書にはなぜ運動が脳に良い影響を与えるのか、その理由や人類が辿ってきた歴史にも着目しつつ記述されている。

私たちがつい怠惰になってしまうことは実は生存戦略の一つであったことや、集中力が続かないことで周囲の危険を察してきたからこそ生き残ってこれたことなどだ。

脳のパフォーマンスを引き出し、より仕事や勉強の成果を向上させたいという思いで本書を手に取る人が多いと思う。

もちろんそうした人にとっても本書は自己改革の重要なきっかけになりうる一冊だと思う。

しかし本書は現代社会を生きる私たちが、環境の激変についていけてないのではないかということを、一度立ち止まって考える機会も与えてくれる。

情報社会として進歩が加速度的に進む現在にあって、それを生み出し進歩させている私たち自身は、いまだにサバンナで狩りをしていた狩猟採取民族と同じ身体を持っているのである。

 

社会不適合は能力の暴走か

本書を読み終えて感じるのは、現在病気とされている精神状態の多くは、狩猟採取生活を送るために最適化された私たちの仕様が、現代社会に対して適合しなくなっている部分が現れているだけなのだなということ。

社会の要請としての振る舞い、社会性などを身につけて実行しようとすることは、これまで人類が生き残るために身につけてきた能力を押さえつけることになる。

本書でも触れているが、例えば「多動症」と言われる状態は、周囲に常に注意を払うことで危険にいち早く気付き回避するために必要な能力だし、ライバルより早く食料を見つけるための強みともなる。

これが現代社会では、落ち着きのない状態と言われ、それを押さえつけることが難しい状態を病気として決めつけてしまっている。

 

生きやすい社会は自分達の特性を知ることから

現在、生きづらさを感じている人は非常に多いのではないかと予想できる。

それは、本書で言及しているように、狩猟採取民族としての強みや能力を未だに手放せずにいるからという面が大きいと思う。

人類の進化は数十万年単位で行われるものであるが、デジタル化による社会の変化はまさに一瞬で環境が激変したようなもの。

人類が未だかつて体験したことのない社会になりつつある中で、私たちがその能力を発揮して、自分らしさも尊重しながら生きるには、自分たちは狩猟採取民の脳や身体を持っているのだという自覚を持つことが重要だったのだ。

そこから、人類の特性にあった社会のしくみを再構築していくこと、そんな姿勢がこれからの社会を形作っていくには大切なのではないかと思わされる本だった。

一流の頭脳
アンデシュ・ハンセン/御舩由美子 サンマーク出版 2018年03月
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