鳥!驚異の知能 道具を作り、心を読み、確率を理解する ジェニファー・アッカーマン 著

自然科学・芸術

鳥! 驚異の知能 道具をつくり、心を読み、確率を理解する (ブルーバックス)

〈鳥頭〉の反撃ー驚異の知能を持つ鳥

「鳥頭」とは、三歩歩いたら忘れると言われる鶏のように、鳥の小さな脳やせわしなく動き
回る様子などから「愚か者」「落ち着きのない者」という意味合いで使われる言葉です。

つまり鳥はあんまりお利口さんではない…そんな印象が昔から人々の間には共有されて
おりました。

本書は、そんなバカにされていた鳥の知能について、新たな知見をもたらす一冊です。

哺乳潤の脳がHDD(ハードディスク)のようなものだとすると、
鳥の脳はSSD(ソリッドステートドライブ)のように仕組みが違います。

HDDとSSDでは同じ記録容量であっても、それに対する物理的な大きさも異なります。

同様に、「人間のような大きな脳=知能が高い」「鳥の脳は小さい=知能が低い」という風に
解釈をするのではなく、脳の仕組みが異なるだけだといいます。

この本では、鳥に対する我々の認識を改めるに値する新事実が、次々と挙げられていきます。

恐竜の直接の子孫であるとか、道具を使っていろいろ工夫をするだとか、さえずりにも方言が
あり、その地方の群(同種の別個体たち)から学んでいるのだ、ということなどです。

「ブルーバックス」という自然科学に関する新書型式の本ですので、専門的な内容が書かれて
はいますが、入門者向けに優しく書かれている本なので、鳥について詳しく知りたい方や、
単純に鳥が好きと言う方が読まれると、かなり深い学びへと繋がる本だといえます。

 

自然が生んだもう一つの「賢い脳」に注目すると…

上述のように、鳥の脳は非常に小さいが性能としては人間に匹敵するのでは、と言うくらいに
賢い知能を発揮します。

本書が指摘する鳥と人間の共通点は、

  • 言葉で交流する
  • 道具を使い課題を解決する
  • 他者から学習し、文化を築き、異性に歌を捧げる
  • 二足歩行
  • 昼行性
  • 知的

などが挙げられます。
むしろ人間よりも優秀な部分も多いのかもしれません。
人間が既に失ってしまった能力を、鳥の脳はいまだ残している可能性もあります。

鳥について深く知ることは、人間への理解を深める助けにもなりうるのだと言えます。
また、こうした高度な知能を持つことが明らかになってくると、それぞれの個体差にも注目
されるようになります。

本書での例はスズメの行動特性についてで、スズメは基本的には好奇心旺盛な種のように見え
ていますが、それは全体の群れの挙動に過ぎません。

人間でも集団になると異常とも言える行動へと発展することがありますから、他の生き物で
そういうことが起こっても自然なことなのでしょう。

スズメの例では好奇心が特に旺盛な個体と反対に臆病な個体の両方がいて、異なる行動特性を
持つ個体が混在することによって全滅を避けている、という巧妙な戦略が見て取れます。

これはスズメの脳がそうさせている、というわけではないのかもしれません。

しかし脳が高度に発達すると、それぞれの個体で独自に思考し行動を決めていくと言うことが
起こってくるので、これもまた鳥の知能が高度に発達しているという証でしょう。

 

鳥そのものがとても愛おしくなる本

この本を読んだ後に山や深い森へと出かけていくと、鳥のさえずりに注意が向きます。

同じ種(例えばうぐいす)であっても、個体の違いによってタイミングやさえずりの音の高低
が異なっていることに、注意深く聞いていると気づくことができます。

さらにそのような体験を重ねていくと、地域ごとに「訛り」があるようにも感じられます。
こうした違いはバードウォッチングをされている方にとっては周知の事実なのかもしれません。

この本を読むことでまず知識としての個体差、そしてさえずりなどのコミュニケーション方法
は生得的なものではなく、後天的に学び取って身につけていることを知ることができます。
その上で実際の鳥たちの生活を観察することで、深く納得する学びにつながってきます。

鳥のさえずりを聞きながらゆったりと過ごす時間の豊かさを、この本はさらに深めてくれる本
であることは間違いありません。

もう鳥のことを見ても、アホっぽいなあとかノータリンだとか思うことはないでしょうね。
私たちよりも高度な”思考”をしているかもしれない街角のカラスにさえも、敬意を持って眺め
てしまうほどに、鳥たちの生態にハマってしまいそうです。

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