ロウソクの科学 ファラデー 著

自然科学・芸術

ロウソクの科学 ファラデー 著

クルックスが記録した、ファラデーの講演記録

本書は1861年のクリスマス休暇にロンドンの王立研究所で行われた連続6回講演の記録。
その講演者がファラデー、書記がクルックスだったといいますが、凄まじい顔触れ。

クルックスとは、陰極線の観察に使う「クルックス管」の発明で有名ですが、
ほかにも物理学や化学他の幅広い分野での功績がある偉大な科学者です。

そんな偉大な科学者が子どもたちに向けて、
ロウソクという身近な素材を利用して行った講演の記録が本書です。

日常と科学の繋がり、宇宙の全てが繋がっていることを理解してもらうための講演。
今でも市民講座とか小中学校への出張講座でやったらウケそうな内容です。

 

そしてさらには本書が長年に渡り読み継がれてきた理由として、
難しいことをわかりやすい言葉に言い換えて説明していることも大きな理由と
言えるのではないかと思います。

私も高校入学時の課題図書として買わされた記憶がありますが、
当時の知識でも本書の言っている内容は理解することができました。

その意味する背景までは理解できませんでしたけど。

そこまで至るには、やはりそれなりの人生経験も必要なのかなと思います。

教育の本としても読める「ロウソクの化学」

本書が教育の本としても読めるな、と感じたのは、
私自身も教員として7年間従事した経験があるからかもしれません。

こういう古典と言われる名著は、シンプルな記述であるが故に読み手のリソースによっては
解釈は全く変わってくるから不思議で面白いものです。

教育者としてのファラデーが話したものとして本書を読めば、彼は教わる側の
子どもたちの視点で物事を話そうと、序盤から心がけていることが受け取れます。

決して権威や圧倒的な知識を盾にしようとしないし、難しい言葉や専門用語を使って
誤魔化すということがありません。

このような姿勢こそが本来あるべき教育者の姿なのだろうと大いに反省をしたものです。

それにファラデーが行う講演は、きっと面白くてついつい聞き入ってしまうであろう
雰囲気だったことがヒシヒシと伝わってくるのです。

そんな楽しそうな雰囲気になるのは、ファラデー自身が化学を始めとした自然科学をとても
楽しんでいたこと、絶えず自然現象への強い興味を持ち続けていたことが挙げられます。

研究対象が面白くて仕方がない、というある種オタク的な要素もあったかもしれません。

今でこそ多少は認識が変わってきましたが、まだまだ特定分野に異常に詳しいオタクは
やや奇異の目で見られがちでもあります。

本書が広く読まれることやノーベル賞受賞をきっかけに、さらに受容しやすい雰囲気が
広がってくれるといいなあと思います。

そうすれば、日本でもより高度な専門家たちが生まれてくる土壌が出来上がるのではないか、
とも思っています。

一つのことに集中して夢中で取り組むというのは、本当に楽しくて時間が経つのを忘れて
しまうものです。そのくらい夢中になっても受容される雰囲気が広まることを願っています。
それが結果的に幸福の総量が増える社会にもなり得ると思います。

 

本書の版などについて

私が読んだ「ロウソクの化学」は、初版が昭和37年の物なので、
翻訳の日本語もやや古い感じがしています。

それでも読んでいると本に引き込まれてしまう内容なのは、やはりファラデーの講演のうまさ
と書記のクルックスの的確な記録の賜物なのだろうな、と思います。

ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏が、本書が「化学に興味を持つきっかけとなった本」
として紹介した後にすごく売れたそうです。

そのためかわかりませんが、現在出ているものはやや値段が上がっていました。

私が読んだ昭和37年版の方が安かったので、リンクは安い方で貼りました。
数ある翻訳の中でも読みやすいと言われている「角川文庫」の訳です。

少し古い表現が気になるかもしれない

内容としては思いっきり理系、それも化学ですが、講演会の出席者が少年少女であり、
本書の想定読者層も中高生であろうことから、そんなに構えずに読むこともできる、
貴重な理系本であるとも言えるでしょう。

裏表紙のあらすじにも、

たった一本のロウソクをめぐりながら、ファラデーはその種類、製法、燃焼、生成物質を語ることによって、自然との深い交りを伝えようとする。ファラデーは貧しい鍛冶屋の子供に生まれたが、苦労して一大化学者になった。
少年少女を愛する彼が、慈父の愛をもって語ったこの公演記録は、その故に読者の胸を打つものである。

-本書裏表紙のあらすじより引用-

例えば「少年少女」と言った言い回しは、今ではあんまり使いませんが、本書ではいまだに使われています。

やや古い時代の日本語の言い回しで翻訳がなされているので、若い人にとっては
少し読み応えがある本になっているかもしれません。

その場合には新しい版(やや価格は上がりますが)があるので、
そちらを改めて読んでもらえばいいと思います。

購入する前に書店などで少し中身を読んで見るといいですね。

しかし少々古いけど古語とまではいかない表現であえて読むと、昔のイギリスの講演の訳を
読んでいるんだ、という雰囲気は味わいやすいかもしれませんね。
これはやや玄人読書向けではありますが。

 

理系分野に興味ありなら必読の書

名だたる科学者たちが口を揃えてオススメする「ロウソクの化学」。

私はオタク養成所とも言っても過言ではない「高専」出身ですが、
そこの教官たちも本書を勧めていた記憶があります。本当に色んな教官が勧めてきます。

その理由として、本書は初めの一歩として興味を持つには最適な本だからということです。
そして実際に、ノーベル賞受賞者が本書が化学に興味を持つきっかけだったと言っています。

そう思うと、今は理系が苦手と思っている人でも希望が見えてきませんか?

数学が苦手だから文系に行った、というケースは非常に勿体無いと思います。
理系だから数学ができないといけない、というのは、
日本の文理選択制の弊害ではないかと私は思っています。

学問を文系と理系に分けることがナンセンスなんです。

本書はそう言った意味でも新しい視点を提供し得る名誉と言えるでしょうね。
教育(文系)の知見を得ることもできる化学(理系)の本。

まだ学問が専門分化仕切っていない時代のお話だからこそ、本来の「知の探求」の形が
色濃く残っている、そんな風に思います。

数学が苦手だけど自然現象に興味がある、
という人全員に、ぜひ手にとっていただきたい一冊です。

 

 

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