鬼谷子 中国史上最強の策謀術 高橋健太郎 著


文庫 鬼谷子: 中国史上最強の策謀術 (草思社文庫)

諸氏百家の”異端の書”、鬼谷子

中国古典の中では「異端の書」として有名だけど、日本語訳をして解説した本がほぼ出てない
という古典とのこと。

孫子を書いた孫臏(そんぴん)に兵法を授けた…なんていうとなんかスゴそうな感じがして、
どんな相手も思いのままにしてしまう秘伝の策謀術でも書いてあるのかと期待が膨らみます。

でも春秋戦国時代などに書かれた中国古典の内容は、読んでみると意外と当たり前のことが
ギュッと凝縮されて、シンプルな格言的な文言で書かれていることがほとんどです。

本書の元ネタとなった『鬼谷子』も例に漏れず、やはり戦乱の世の中を強かに生き抜くための
様々なノウハウがシンプルに記述されているもの。

そしてもちろん、戦乱の世ではない現代社会であってもその応用は可能、むしろ積極的に活用
していくことで、より思い通りの人生に近くことが容易になります。

人間の営みは2000年後も変わらない

社会変動やテクノロジーの発展など、時代は急速に変化している…学校や会社で、いつの時代
も使われるフレーズですが、別に今だけ”激動の時”なわけではありません。

春秋戦国時代とか戦乱の世は、それこそ生きるか死ぬかの世界ですから激動という表現も妥当
かもしれませんが、現在はそこまで酷い事にはなっていません。

しかし一人一人の人生やいきやすさなどに注目すると、まだまだ決して生きやすいパラダイス
というわけでもありません。

これは人間の性質によるもの、とも言えますが、そんな世の中を自分に有利な状況で進める、
強力な武器が、本書で取り上げているような古典、ということになります。

「古典」こそが、時の試練を乗り越えて今に伝わる最強ノウハウなんだと再確認する本です。

そしてそのノウハウは、特別な秘法というわけではなくて、日々積み重ねる小さな心がけや、
対人関係での相手の立場の尊重という現代社会でも大切にされつつある価値観を踏襲するもの
でもあったりします。

2000年以上も昔に、すでに中国では人間関係(=国家間の関係性に通ずる)を良好に保つ
方法が体系化されているのに、愚かな人類はいまだに争っていますね。

ここに学問(=理想)と現実世界への応用の難しさがあるのでしょう。

しかしその理想を上手に現実社会へ適応させ、まあまあ平和で安定した社会を実現させた
君主とか支配者が”名君”とかって呼ばれるのかもしれません。

そう考えると、古くからの格言を素直に学んで身につけて思慮深いタフな人間ならば、簡単に
名君が作れそうな気がしますが…それはプラトンもやろうとしてましたね(哲人王とか)。

今まで超優秀な人たちが支配者層には属しているはずです(日本でもそうですね)が、哲人王
のような思慮深くて古くからの知恵を実践するような国家元首がなかなか存在しないのは、
現実的に人間がそんな存在になることは非常に困難、ということかもしれません。

鬼谷子は生き残りのためのコミュニケーション術

さて本書の内容についてですが、鬼谷子の基本姿勢は「言葉が全てを支配する」。

どんな場面でどのような言葉を使うかによって、状況が同じでもその後の展開は全く違う事に
なるということを冷静に分析しているものです。

言葉(=ロゴス)を主体とするこの文化は、やはり大陸内での争いの歴史が背景にあるから
こそなのかも、との感想を持ちます。

ギリシャに始まる西洋哲学の姿勢にも通ずるような、リアリズムを感じます。

聖書もはじめに言葉があったりと、文化の根底には「言葉」で表出したものを重視する、
という部分が強い印象です。

日本のように言葉にすることが「粋でない」というように、なんかダサいというかモロだと、
デリカシーのないやつ(空気読めないやつ)的な扱いを受ける文化とは対極的ではあります。

しかしこの、言葉を使って相手の心を動かす、という方法論の基礎には、もちろん相手の心情
を考慮し、その上で状況に合わせた言葉を使え、というノウハウになります。

やはり戦乱の中の生き残り術。さすが中国古典。強かさが段違いです。

と、そんなわけで言葉より空気を重視する日本の「ふんわりした雰囲気重視」文化でも、十分
に活用可能であると言えるでしょう。

もしかしたら、他に対人コミュニケーションや心理学などを学んでいると、本書の言わんと
していることのもっと真髄に近いところが理解できるのかもしれません。

目的は相手を自分の意図に沿うように動かすことであり、小手先のテクニックがうまく作用
するようにすることではありません。

私もそうですが、こういう「他人を思い通りに動かす」的なノウハウを知ると、ついつい目的
を忘れて相手をコントロールすることばかりに気を取られてしまうんですよね。

しっかり目的を持ち、大局的視点を維持しつつ活用したいものです。

本書のオススメ度

この本は元々2016年に出版された、
『鬼谷子 100%安全圏から、自分より強い者を言葉で動かす技術』
の文庫版になります。

私が書店で目にした時は、草思社の文庫版でした。

私個人的に「草思社」からの文庫は視野を広げてくれるような、学術的にも深堀りしている
ものが多い印象があり、タイトルで目についたものは買うようにしています。

ただ草思社文庫は分厚くて文字が小さい物が多いんですよね。

活字中毒患者としては、少ない投資でたくさん文字があるとコスパがいいのですが、早くその
内容を知りたい!全容を掴みたい!という時にはやや骨が折れます。

今回はそんな草思社文庫にしては文字も大きく読みやすいものでした。

中国古典という、そもそも文字数が少ない中で深遠なる思想を説くジャンルなせいもあったの
かもしれませんが、私はサクサク読むことができ助かりました。

まあそんなわけで、自分よりも強大な相手や営業さんでいろいろな人に売込む必要がある人、
さらには社内政治でドロドロの人間関係の中から抜きんでたい、なんて人にはピッタリかな?
と思う内容になります。

私は今は自由の身ですから、本書のノウハウは高額な買い物の時に相手の立場を立てたり、
距離感を調整したりして活用するくらいでしょうか。

いずれにしても、本書のノウハウを意識して使っているうちは、相手に小手先のテクニックを
使っていると見破られる確率も高いでしょう。

日々、意識的に、どんな人とも対話をするときには、本書にあるような距離感や相手の立場、
発する言葉、顔色や声の調子などに注目して、一刻も早く自分の血肉としましょう。

すると、自分の状態も良くなり、より一層相手にこちらの望むような行動をとってもらう
事につながりやすくなってきます。

あくまでスキルの1つとして、冷静に活用するようにしましょうね。