再現性のある早期リタイアへのロードマップ
本書はいわゆる”早期リタイア”するための方法論が書かれた本で、起業や投資家と言ったある種の特殊能力を持った人以外に向けた、汎用的リタイア法とも言える方法を提示しています。
まえがきにも書かれているのですが、本書の著者であるクリスティーン・シェン氏はあらゆる階層の人々に一部重なる経験をしている人物という意味で稀有な存在です。
中国の農村出身で貧困な生活経験したり(1日44セントで家族が生活、コーラが最強の贅沢だと思っていた等)、特に成績が良いわけでもなく必死に勉強して必要最低限の成績で大学を卒業したり、いわゆる普通よりちょっと苦労の多い人、という前半生。
まだ30代とお若い方なのですが、大学卒業を期に貧困層の生活からいわゆる中産階級の生活へとステップアップしています。
大学の選び方(授業料などの投資分と、卒業後に得られる給与と最低賃金の比から、コスパのよい分野を選ぶ)や投資商品の選定など、さすがエンジニアと思うような数字を元にした判断は、今後の決断ごとにも生かせそうな視点です。
このように前半部分だけでも、この著者がなぜ経済的自立を30代で実現できたのかが垣間見える気がするような経歴です。
しかしそうした状態へ至る最初のステップには、”欠乏マインド”というお金を使いたくないという価値感があったためだということも著者は言っています。
この欠乏マインドのおかげで、私たちのような極度の貧困とまでは行かない者が気づかないような”無駄”が、著者にははっきり見えてくると言います。
そしてその無駄が見えるからこそその無駄を削り落とし、少ない収入でも経済的自立を実現させるためのポートフォリオ構築の資金として増やしていくのです。
限りなく現実的な経済的実への道
この本を読んでいるなかでハッとさせられたところとして、
心から好きなことをすればお金は後からついてくると期待するのは危険。まずはお金を追いかける、好きなことはそのあとでもできる
このような文章があります。
現在、書店やネット上などには「好きなことをしてお金を稼ぐ」と言った趣旨のもので溢れているように感じます。
そして私自身も、そのような「好きなことを仕事にして生計を立てる」という目標に向かって動いているところでもありました。
しかし本書では、「(まだ)自らの情熱に従うな」という第3章のタイトルにもなるほど、まずは生活基盤を確固たるものにしよう、ということを強調しています。
「(まだ)」とつけているところが大切で、決して自分の情熱や夢を諦めることはなく、自らの情熱を生かすためには最初から情熱に従った仕事で生計を立てようとしてはいけない。
最初からそれ一本で生活しようとすると、まだスキルも高くないし認知もされていないので、生活するための収入を稼ごうとすると非常に苦しく辛いものになってしまう、という理由があります。
そこで、まずは経済的自立を確固たるものしましょう、その方法は…という流れで、インデックス投資や債券を組み合わせたポートフォリオの作り方の説明を読ませていきます。
今、世の中は自分の好きなことをして生きて行こう!という本や情報が溢れています。そしてそう考えたいし、実現してほしいと思うのが多くの人の正直な気持ちだと思います。
そんな時に、残酷な現実でもある「自らの情熱には従ってはいけない」と言われては、そんな本をわざわざ読みたいとすら思ってもらえないかもしれません。
しかし本書は「(まだ)自らの情熱には従うな」という逃げ道を作ってくれており、そしていずれは情熱に従って生きることができる、しかも経済的な後ろ盾を持った上で!ということになります。
そういう話の展開となれば、自分の好きなことをして生きていきたいと思う私のような甘ったれな人でも、しっかりと現実を見据えて目の前にある仕事に集中しよう、一刻も早く必要資金を稼いで用意しようと思えます。
そしてなにより精神的に大きな影響を受けるであろうことは、今の仕事がそんなに好きじゃなかった場合に、その仕事をいつまでやればいいのかの出口がわかることで、とても気持ちが楽になるのを感じました。
もちろん今の仕事が天職だという人は経済的自立をしたあとも続けるべきなのですが、今の仕事をずっと続けるから自分には本書で主張しているような方法の経済的自立は不要だ、という風にはならないでしょう。
むしろ好きな仕事をずっと続けるため(その仕事を続けられなくなってしまうリスクを減らすため)に、そういう人も経済的自立に向けたポートフォリオを持つべきだと言えます。
経済的自立が実現したあとも働きたいと思えるのなら、継続的に収入がある分だけ目標額が低く設定でき、そしていずれは完全なる自立ができるほどの規模のポートフォリオに成長するとうメリットまでついてくるのです。
これはもう、仕事を続けようが早くリタイヤしようが、経済的自立を目指さない手はないですね、となってしまうのです。
実際に日本でも通用するのか
本書の方法を実践する前提として、カナダやアメリカなどの環境や条件を想定しているように感じました。
日本にいながらにしても、本書で紹介されているような性質をもつ投資商品を選んで購入していけばいいのでしょうが、ほぼ日本語しか読めない状態ではややハードルが上がるかもしれません。
とは言え、もう働かなくてもいい状態が実現できるという大きな果実を得るためには、英語や他の言語を読めるようになるくらいの努力はなんともないですよね?
投資投資と本書の後半部分ではほとんどのページを割いて説明しているのですが、その前に借金がある場合には、もちろんそれらを返し終わってからにしましょうとも書かれています。
書かれていますが、住宅ローンのように金利の非常に低い借金の場合は、どうやら例外があるようです。
本書では「4%ルール」という基準があり、ローンの金利が4%以下なら、稼いだお金を返済に回すよりも投資に回しましょうということが書かれています。
今、日本国内での住宅ローン金利は1%未満がほとんどですから、住宅ローン以外の借金やクレジットカードを使った分の債務をしっかり払うことに集中すれば良さそうです。
しかし現在、アメリカのインデックスファンドであるS&P500の利回りが3.8%程度となっているので、借金の金利4%ルールよりはもう少し渋めに判断するか、やはり先に借金を返済し、その後に余剰資金を集中的に運用すべきでは、とも思います。
一方で複利の効果を考えればできるだけ長期間保有したいという気持ちもあるので、住宅ローンくらいは期間の利益を活用して少しずつ返済する方法でいいのかなあ…とか迷ってしまいます。
とは言え、結局は投資or返済に当てられる余剰資金の割合である「貯蓄率」がどのくらい取れるのか?にかかってくるんですが。
そこをしっかり押さえておかないと、いくら収入が多くても経済的自立には至らない、という事実が、もしかしたら本書で最も押さえておくべき重要ポイントかもしれません。
収入の寡多より「貯蓄率」を上げよ
高収入の医師や弁護士でも、なぜか働かなくても良い経済的自立に至っていない事例を著者はたくさん見てきたのだそうです。
そこでその理由を分析したところ、収入が高い人はそれだけ日常的な支出が多く、貯蓄率が非常に低いということがわかったと言います。
一方でそこまで収入が高くない一般的(と、言っても本書では10万ドル程度の人が一般的とされています)な層でも、支出を抑える工夫をして貯蓄率を高めた人が早期リタイアを実現しています。
本書に詳しく書かれているのですが、貯蓄率が高いということは年間の支出額が収入に対して少ないということで、その生活水準を維持するならば経済的自立に至るために要するポートフォリオの規模も小さくなる…ということです。
単に収入が高いから経済的自立が実現でたということじゃないんだ、ということが納得できる理由が様々に説明されているのですが、それはより確実に経済的自立を維持するための方法論としても通用するものとして説明されています(利回りシールドなど)。
「早期リタイア」というタイトルではありますが、そして再現性のある方法を提示している本なのですが、巷に溢れる夢見る感じのリタイア本とは違って、非常に現実的でリアルな方法を説いているために目が覚めるような感覚になる本でした。
結局、お金の面での欠乏をクリアするための方法には近道とかは無く、
- 固定費を押さえて無駄を省いて生活に要する費用を下げる
- 浮いたお金を投資に回す
- 投資はインデックス型が最もよいパフォーマンス
- 株式と債券を組み合わせたポートフォリオ
という、地道で堅実な戦略をコツコツを続けた先に待っているものなんだ、ということがよくわかりました。
そしてこれまで夢見ていたせいでゴール地点がどこにあるのかわからなかった感じが、スーッと霧が晴れるかのように見通せるようになりました。
まずは固定費の削減、そして情熱に従わずにコスパのいい仕事を選ぶこと、浮いたお金はまずは借金返済に充て、完済したらインデックスファンドと債券に投資する。
あとは投資にあたっての手数料の安いところを探すとか、自分にできる範囲で割りのいい仕事を探すなどと言ったことへのリソースを集中すればいいということになります。
この本はこれまでの類書と違って、全体像が見渡せるせいか自分が今どのあたりにいて、これから何をすべきなのかが俯瞰できるところがいいですね。
この方法が合う合わないはあるとは思いますが、私はこの方法を参考にしていくことは少なくとも資産が減ったり不幸になったりすることはないと思います。
うまういけば早期リタイアも夢じゃないってことがわかれば、もうあとは前に進むのみ。
とても大きな希望をもらえた、久しぶりに出会えた良いリタイア本でした。