正直よくわからないが引き込まれる 『風の歌を聞け』村上春樹

今更ながら読んだ、天才作家の原点

先日読んだ『100歳まで読書』で冒頭の一文(”完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。”)が引用され紹介されていたので、興味を持ってしまった。

なぜなら『100歳まで読書』は私の心に深く突き刺さる強大な影響を及ぼす本だったからだ。

これまで村上春樹の小説はなんだか難しく感じられ、よくわからないので避けていたところがある。

高校時代の課題図書で『ノルウェイの森』を読まされたが、その時の理解不能な印象のみがこびりついていたからだ(内容は全く覚えていない)。

さらに私の性格が「流行り物、主流のものは避ける」というへそ曲がりであるため、いわゆるベストセラー作家の作品というものに魅力を感じないことも、これまで自ら手に取らずにいた理由でもある。

だが、今回はそんな忌避感をも乗り越える影響を与える本から紹介されたこともあり、『100歳まで読書』を読み終わったその足で書店に向かい購入した。

こういうとき売れ続けている作家の本はどこでも手に入るから助かる。

普段読んでいるマニアックな書籍との大きな違いだ。

読んでみたが、やっぱりよくわからない

いつになくこの本への期待が高まっていて、自宅に帰るなりすぐに読み始めた。

冒頭の文章は先に読んだ本で紹介されており、入り口のハードルは軽々超えた。

従来ならばこの哲学風な格言に反応して本を閉じるところだ。続けて読み進めていく。

予想通り、だれがどこでしゃべっているのかさっぱりわからない。

一回読み終えて、2周目の再読で「ああこれは鼠か」とわかるくらい。

一回読んだだけでは意味はさっぱり。

でもなんだか不思議な力で引き込まれていくのはなんでなのか。

その不思議な感覚に包まれながら、あちこちに飛ぶ場面にも目が回る思いをしながら、ページを行ったり来たりして読み進め、160ページの本文+あとがきにかえてを読み終わった。

休憩なしで一気に行った。

読了後、疲労感がない。不思議だ。これが売れ続ける小説の力なのか。

で、結局なにがいいたかったのかはわからないまま。

私がアホなのだろうか。

再読を試みる

あまりにも場面や時系列が入れ替わるので、再読してみたらわかるんじゃ?と思って、冒頭から少し読み返してみた。

先述したが、やはり一回全部を把握してから、もう一回読み返すことでわかってくることがあるようだ。

なるほど、そう思えば複雑怪奇に思える場面転換や物語の進行も、スッキリ…とまでは行かないが理解はできそうだ。

このことに気づいたら、俄然この小説が面白く感じられてきた。

恐ろしい小説だ。

これがデビュー作とは。

ビール飲みながら野球観戦していたときに急に「小説家になろう」と思った人物が初めて書いた小説にはとても見えない。

こんなのを読んだら、小説家志望の若者は絶望感を持ってしまうんじゃないかと思うほどだ。

幸い、私はそんな希望は持ち合わせていないので、ただ一人の読者・消費者として、物語を楽しむだけだ。

と、ここまで書いて思ったのが、わざとわけがわからなくなるように書いて、読み終わった後に最初から読ませようとしたとしたら、やっぱり村上さん、スゴイ。

ものぐさで積読の塔が天を貫く状態になっている私が、本の再読なんて滅多にしないのに、「もしかしたらもう一回読むとわかるかも?」と思わせて実際に読ませたのだ。

実際に読ませたのだから、やっぱり自然と人をそのように動かす力があるのだ。

この人ヤバいですなあ…。

時代を超える作品とはこういうことか

私が今この時点まで本作を読んでいなかったことが、自分でも信じられなくなりそうだ。

現にこの作品が1979年に生まれたということが信じられない。

物語を読み進めれば、その時代背景からこのくらいの時期だろうとはわかる。

だがこの小説は、2022年に私が初めて読んだにもかかわらず、古さを感じない。

物語の展開に慣れずに難しいなあとは思ったけれど、時代的な違和感も持たずに読み終えてしまった。

文庫版の1刷が2004年だから、21世紀になってから出たのかと勘違いするほど(それほど興味を持っていなかった)のお馴染み感。

普遍的な何かを描いているからなのか、それとも私の感覚がおかしいのか。

もし前者なのだとしたら、これは世界で語り継がれる古典作品と同じように、時代を超えて人々を啓発あるいは楽しませるだけの内容を持っていることになる。

時間の試練を乗り越えるだけの力を持った作家が書いた小説なのかもしれない。

だが、もし私が本作の発表時にすぐ読んでいたとして、ここに書いたことと同じような印象を持ち評価することができただろうか。

出版から40年以上経ち、作家としてはノーベル賞に最も近いと言われ続けるほどになった村上春樹が書いたデビュー作、という先入観がそう思わせていることも考えられる。

仮にそうだとしても、私が文学のなんたるかを理解できないアホであっても面白いと感じ一気に読み終えてしまうほどなのだから、少なくとも「繰り返し読めば面白い」とは思えたのかなとは思う。

思いたい。

まだ読んでないって人は読書家には少ないとは思うけれど、私のように食わず嫌いで読まないでいる人はぜひ手に取ってみて欲しい。

引き込まれて寝るタイミングを逸してしまうこと間違いなしだ。

 

風の歌を聴け

村上 春樹 講談社 2004年09月
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