腸内細菌と人体の関係性を一般向けに解説
本書は1992年5月に初版発行された書籍です。
この当時、腸内細菌と人体が共生関係にあると一般の人は想像だにしなかったと察します。
そんな時代背景において、腸内細菌が人体へ多大な影響を及ぼしているのだということを、
広く普及させようと試みたのがこの本が出版された意義。
未だ「成人病」という表記が時代を表しています(現在では「生活習慣病」)。
牛は草しか食べないのに…
「牛は草しか食べないのになぜ肉ができるか」
本書はこのような疑問を持った少年の問いから始まります。
ある家族が腸内細菌について知識を深めていく過程を傍観することで、読者にも易しく、
理解が深められるような構成になっています。
この本に出てくる主人公の少年の父親が、高校の化学の教員という設定。
私も高校の教員でしたが、化学の先生がここまで微生物について詳しいというのは、
ちょっと飛躍している印象を受けますが、「分かりやすい解説」「ちょっと高度な内容」の
説明を正確に行う、というキャラ設定上、高校教師がちょうどいいレベル感なんでしょうね。
そんな高校教師の父親が、息子の疑問に答える形で物語が進んでいきます。
そして時には疑問を深掘りしたり、事前に調べものをするような課題を与えたりしながら、
家族全員が腸内細菌について理解を深めていきます。
というか今(2020年)を生きる私にとってこの本の印象は、中学生のころの教科書的な
雰囲気をとても感じる物でした。
この家族、優秀すぎるだろ…。
知識としてはやはり1990年代らしいもの
腸内細菌についてまったく知らないとか、名前くらいしか知らないという人にとっては、
その基本的な知識、の理解を得るにはうってつけの本と言えるでしょう。
ただ、そういう人が手に取るか?といえば、その可能性は限りなく低いでしょうね。
ご自身の腸内環境が悪化している…という時には、もしかしたら手に取るかもしれません。
腸内最近の状態と、人体の健康や体感的なものとの関連性を知るにはレベル感がちょうどいい
内容でもあります。
まだ健康な体を維持するための方法についてや考え方が、人間(や生物)の体は機械のような
ものである、という機械論的な印象を受けるところもあります。
今でさえ人体の複雑な仕組みが完全に解明されきっているとは言い難いですが、当時としては
「こうすれは、ああなる」的な機械への入力と出力の関係のような、固定された単純なモデル
を想定しているのかなあ、と思います。
とはいえ、知識としての腸内細菌を理解するにはとてもいい本です。
今の視点で改めて読んでみる楽しみ
実験の方法や信頼性、そして今後の展望や可能性にまで言及しており、本書発行から30年後の
私が読むにあたっては、高齢化予想などの数値を現実のものと見比べると面白いです。
実際に、未来予測というのはやや極端な内容となることが多い(警告する意味でも)ですが、
それをも上回る現実が今起きつつあるということを知ると、なんともいえない気持ちです。
ただ、腸内細菌に関する内容については、さすがは当時の最新知識を詰め込んだだけのことは
あるなあという内容です。
現在、健康に少しでも関心がある人ならば、腸内環境の改善が健康な心身の維持にとても重要
であることは常識のようになっています。
そういう少し進んだ視点をお持ちの場合、本書のような発行当時の最新知識を網羅した入門書
というものは、読みながらツッコミを入れたりする楽しみ方もできます。
そして現在の知識との比較をすることで、研究の発展過程もわかり、網羅的な理解にも繋がる
のではないかと私は考えています。
そんな副次的効果も期待できるものですから、こういう古くなった科学的書籍を好んで読んで
いたりします。
今すぐ役立つ最新知識!とか、そういうものではなく、知的な興奮を体感し、さらなる学びへ
のモチベーション向上に利用されると良いのではないかと思います。
お時間があればご一読ください。
きっとご自身のお腹のコンディションにも気を配るキッカケを与えてくれるでしょう。