空間の謎・時間の謎 宇宙の始まりに迫る物理学と哲学 内井惣七 著


空間の謎・時間の謎―宇宙の始まりに迫る物理学と哲学 (中公新書)

古典力学から宇宙論までの連続性がわかる本、ではあるが

本書は「空間・時間」と「謎」という言葉から、どうやら科学と哲学が混ざったような本だろうなと思って興味を惹かれて買った本です。

その見込み通りの内容と展開ではあるのですが、新書という形式上一般向けの内容とする方針があるのか、数式をできるだけ使わないようにしている印象を受けました。

文系学科出身の方で数式アレルギーという場合、数式が目に入らないことは読み始めるハードルを大きく下げる効果があるのでしょう。

一方で元々理系だった私にとってはとても読みにくく、日本語の文章で概念や現象を丁寧に説明しようとしてくれているのですが、読んで飲み込むまでがちょっと手間がかかる本でした。

頭のいい人が書いた本だなあ…という、大学生のころの専門書を読むときのキツい感じを思い出しました。

あのいわゆる「教養程度で理解できるように平易に記述した」という、この本は超難しくて初心者にはわからないよ、って言外に言っているような、そんな雰囲気でした。

ニュートンとライプニッツの対比から

とはいえこの本の着眼点が素晴らしいと思ったのは、ニュートンやライプニッツという大昔の理論から現在に至るまで、その系譜が脈々とつながっていることや、ライプニッツ的な視点が宇宙論に見出されているということを改めて認識させられる点です。

私が宇宙論についての門外漢であるからなのかもしれませんが、最新の宇宙論や素粒子論、量子論について、ニュートンやライプニッツの思考が絡んでくるというのは新鮮な驚きでした。

まさに温故知新。違うか?

ライプニッツといえばその代表的な思想は「モナド論」。

そしてそのモナドは意思をもっていて、一つとして同じものがない…。

宇宙論や量子論に触れずにモナド論について勉強していると、「ああ、昔のおっさんが妄想してる…」などと思ってしまったものです。

しかし原子や分子を観察することさえできない時代において、思考や観察、実験だけでここまでの着想を得たのはまさに天才の成せる業でしょうね。

原子論とモナドの関連については、ライプニッツのモナド論を勉強しているときにはさすが天才という風には感じました(と言っても昔のおっさんの妄想の延長、と思っていましたが)。

ところが本書、「空間の謎・時間の謎」の中で触れているライプニッツは、これまでの認識を新たにせざるを得ませんでした。

なぜライプニッツが未だにここまで偉大視されているのか、またそのライバルとも言えるニュートンとの対比(どちらも微積分の発明者とされています)が現在まで続いているという事実。

この二人が力学に対する姿勢で対立したのは、どちらも正しかったからだ…ということがわかるのが宇宙論や量子論が確立されてからという。

死後300年近くが経ってからその理論がどっちも正しく、現象の本質を捉えていたことがわかる、その着眼点たるやさすがは天才といったところ。

力学の一学徒だった私にとっては、その慧眼には鳥肌が立つほどの衝撃でした。

先人の知恵の積み重ね

古典力学というものを、工学系学生は特に基本的な世界の捉え方として学びます。

「古典」と言われるからには現在はすでに死んだ学問だと思いきや、地上での現象やごく狭い範囲での力学的現象については、シンプルな数式でほぼ完全に計算ができる優れものです。

いわゆる運動方程式(F=ma)や慣性の法則、作用反作用のお話です。

その後、アインシュタインが相対性理論を提唱し、太陽周辺の空間が曲がっていることが観測から証明されるまでは、世界は運動方程式が完全に支配していると思われていた節があります。

現在でも地上の運動については、ニュートンの運動方程式で十分正確な計算が可能です。

ですが宇宙の話になると、それはまた別の世界の話だと勝手に思い込んでいました。

相対性理論や量子論は、宇宙のような広大な空間や分子や原子よりなお小さい素粒子の世界という、私たちには認識し得ない世界の話だと。

よく考えれば当たり前なんですが、古典力学による世界の認識があって、それをこの世全体に拡張するために大きな範囲や微小領域での修正するための理論が相対論や量子論になります。

だから古典力学が基礎としてあり、その上に積み上げられてきた考え方が相対論であり量子論である、ということです。

当たり前の話なのに、なんだか難しそうだし日常にあまり関わりを感じられない話として認識してしまったがために、勝手に別物の話だと思い込んでしまっていたのです。

これは私だけかもしれませんが、古典力学(高校の物理レベル)から相対性理論や量子力学(大学一般教養課程)の繋がりがはっきりわかると、途端に身近に感じられるようになります。

そしてその親しみやすさから、なんとなく苦手という意識が薄れていき、より専門的な領域へと勉強を進めていけるようになります。

通読するのに非常に労力の要る本でしたが、「新書」という形式である意味が読み終わってやっとわかったように思います。

この本の存在意義は、高校レベルの理科(多くの人が知っている知識)から大学レベル(やや専門的)への橋渡しを為すことなのだということ。

だから数式で正確に記述する必要はなく、さらに知りたい人向けには参考文献や類書(すぐ見つかります)を探して読めばいい、と。

やっぱり頭のいい人が書いた本だなあ…と、冒頭とは別の意味で感じた一冊でした。

宇宙論の曖昧なところが明確になる

この本を読んで私が得たものは、ビッグバン説やインフレーション説、それに重力が歩のエネルギーであるといった、言葉では知っているけれど結局なんなの?って思うことが明確になったことです。

これはとてもスッキリしましたし、宇宙についての厨二的思考の迷路からも抜け出せるように思います。

その「スッキリ」を得るためにも、本書前半のニュートンとライプニッツの対比や統計力学の説明が大切だったのだなあと思います。

ぶっちゃけ統計力学とか私にはフィーリングでしかわかりませんが、本書は数式がほぼ使われていないのでなんとかなりました。

理系出身の割には数式アレルギーがある私にとっては、このくらいの宇宙論がちょうどいいのかもしれません。

数式が得意!という方は、この新書を読み終わった後にはぜひもっと厳密な計算過程なども参照できる専門書にも挑戦してみてほしいですね。

私はひとまずの宇宙論の理解は、この本の水準で満足できてしまいました。