本当の仕事 自分に嘘をつかない生き方・働き方
榎本英剛 著
本書の概要と主な主張
多くの人が仕事に喜びややりがいを感じられないのは、その仕事の内容や条件ではなく、その人の「仕事観」に原因があると著者は言います。
著者が「4つのメガネ」と呼ぶ、自分に力を与えてくれる仕事観を身につければ、誰でも「やりたい仕事をやって、生計を立てていく」ことが可能だというのが本書の主張です。-amazonより引用-
というように説明がなされており、誰もが天職を見つけることができるのだ、ということを
主張しています。
特に本書の特徴として「4つのメガネ」という物の見方が紹介されており、これらの視点を
通じて仕事や生き方を見直すことで、新たな知見が得られるというものがあります。
本書を手に取った理由
例えば今の仕事が自分には合っていないと感じているとしても、
その仕事に対して主体的に取り組み、自分から課題を発見して解決するようなサイクルを
実行すると、どんな仕事でも自分が主役となり、やりがいを見いだすことができます。
という自分自身の経験と、
本書の著者が主張する「4つのメガネ」の仕事観による天職の見つけ方を
比較してみたかったということもあるのです。
著者について
「コーチング」という行動を変化させる技法を、初めて日本に紹介した人物として有名。
コーチング的なアプローチについての私の理解では、
表面的に行動が変わればよしとするのではなく、その行動の理由や動機が目的に適った物に
なっているかを深く認識するよう努め、深層意識と顕在意識が一致した行動として表出できる
ようサポートするもの。
このようなコーチングの技法を、組織的に日本に取り入れて普及に努めた人物のようです。
榎本 英剛
1964年、兵庫県生まれ。一橋大学法学部卒業後、株式会社リクルートに入社。1994年に同社を退職後、米サンフランシスコにあるCalifornia Institute of Integral Studies(CIIS)に留学し、組織開発・変容学で修士号を取得。留学中、The Coaches Training Institute(CTI)にてコーチングを学び、認定資格(CPCC)を取得。2000年にCTIジャパン(現・株式会社ウエイクアップ)を設立し、日本でコーチング・プログラムの提供を開始する。NPO法人トランジション・ジャパン、およびNPO法人セブン・ジェネレーションズを創設。2012年、よく生きる研究所を設立。-amazon「著者略歴」より引用-
よく生きる研究所、というものを設立すつほど、もしかしたら著者は、仕事についての悩みが
あったのかもしれません。
仕事に対して疑問を持たなければ、退職後に進学とか、あまり考えなさそうです。
こういった人が然るべくして取り入れたコーチングですから、自分自身が心底納得する生き方
を実現するのには、とても有効なスキルなのかもしれません。
本書の内容
個人の視点に着目した異色の仕事論
本書は「コーチングの第一人者による異色の仕事論」という本の紹介文にもある通り、
従来の成功法則などを通じて、成功者はこのような振る舞いをしてきた。だからこのように
すると成功できるよ、と言うような仕事論とは一線を画すものです。
こうした従来の仕事論的書籍は、かの有名はナポレオン・ヒル的なものが雛形として長い間
君臨していたように思います。
しかし本書は、あくまでも個人の視点において、どういう生き方をしていけば自分らしく
生きていけるのかに着目して展開しています。
そこが新しいアプローチだと感じます。コーチングの第一人者であるがゆえに、個人の内面へ
のアプローチが根底にあるかのような本書の主張です。
誤解されている?コーチング
これは私自身が日々感じていることですが、コーチング的アプローチが少しずつ普及してきた
とは言え、まだまだその目的は他人を思い通りにコントロールしようとする技法として誤解を
受けている部分もあります。
コーチングを通じて得られるのは、その対象者が自分で出した答えに沿って行動を変容する
ものです。答えは全て、クライエント(対象者)が持っているんだと言う前提です。
学習支援としてのコーチングが塾や一部の学校で行われていますが、私の感覚としては、
学校でコーチングをすると、半数以上の生徒は勉強よりも興味・関心を深める方向へ進むと
思えます。その結果、やっぱり勉強が必要だ、と思えれば学習支援に使えますが。
一旦、心の深い部分にある興味・関心に接したのち、生徒自身が勉強が必要だ、と実感して
もらう事で、おそらく教育者側の目論見は達成されるのでは、と思います。
しかし私の感覚では、そう言う心の底にある欲求へのアプローチがなされぬままに、
表面的な行動をコントロールしようとしてないか?と疑問に思う事例が多々見受けられます。
教師が楽をするために利用される、と言う感じです。
広く普及すると、それが都合よく曲解されて利用されると言うのは仕方のない事ですが、
本書のような考え方が広まって、少しでも多くの人が自分らしい人生を実現できることを
願ってやみません。
純粋意欲
本書の中で重要な概念として、「純粋意欲」というものがあります。
これは、なぜそれが好きなのかよくわからないけれどとにかくそれが好きである、
といった感覚で、理由がないけど好きであると言い切れる対象のことだそうです。
何かにつけて、理由を求められる現在の生活の中で、
理由もなく好きなものって、存在すること自体が許されないような感覚があります。
それをまず認めてあげましょうと言うことです。
自分の心の中にある問題を認めず、それを直視しないことで自分を保つ、と言う状態が
ありますが、コーチングではそういったものを少しづつ直視できるように、コーチが
外部からアプローチする手法でもあります。
ここで「純粋意欲」と言う概念が紹介されたことで、読者の中でも(私を含めて)、
心の中で蓋をしていた「好きなもの」が、少しずつ見えてくるのではないでしょうか。
4つのメガネ
本書で紹介されている「4つのメガネ」。
独特な日本人ならではの仕事の価値観とも言えそうです。すなわち、
日本人は「4つのメガネ」で仕事を見ている。
1.仕事とは、「生計を立てるための手段」である
2.仕事とは、「やりたくないことをやる」ことである
3.仕事とは、「既存の職業に自分を合わせる」ことである
4.仕事とは、「同時に一つしか持てない」ものである-「本当の仕事 自分に嘘をつかない生き方・働き方」より引用-
本書では、人生最期に後悔しない生き方をするために試してほしい、と言う
「4つのメガネ」と言う見方が存在します。
これらは私たちの親世代とも言える一世代前の人たちが当たり前の共通認識として持っている
価値観と言えます。
私たちも周囲の大人から、こういった価値観が当然のように共有され、受け入れています。
今、そういった「古い価値観」を一旦手放して、それが自分にとって必要なのかどうか、
一度振り返ってみる事が大切です。
古いものはみんなダメ、と言う訳ではなく、今まで盲信してきた価値観を客観的にみて、
自分に必要なら再び取り入れ、不要ならば手放しましょう、と言う事です。
自分の内面を一旦客観視して、改めて選択し直す事が、コーチング的なアプローチだなあと
思います。
仕事をしていて、なんか腑に落ちないとか、息苦しい、本当はもっとすごい事ができそう、
といった不完全燃焼感の正体が、こうした古い価値観によるものだった、と言う人も
一定数いるように思います(私自身がそうでした)。
本書で言及しているように、死ぬ前に後悔しないよう、こうした価値観に縛られない状態で、
純粋意欲に従って仕事なり生活を組み立て直す事が大切なのですね。
この本をおすすめしたい人
【天職を求めて転職しまくっている迷える人】
天職はものの考え方によっては、すでに就いている事もあります。
本書を読み、自分の純粋意欲を認識し、なぜ今の仕事をしているのかを再考してみる。
すると、今の仕事が天職なのか、または自分が望む形の仕事が見つかるかもしれません。
書評まとめ
コーチングについて知っていると、本書で主張している内容と、その根拠が理解しやすい
と思います。
だからと言ってコーチングを知らなくても、十分に理解できますし、本当の仕事についても
考える事ができるでしょう。
従来の価値観である「4つのメガネ」に代表されるものの見方に支配されている人にとっては
もしかしたら苦しい感じがするかもしれません。
「そうはいっても…」とか、「自分の好きな事で仕事なんかある訳ない」とか、
そう言う風に確固たる信念として持っていると、本当にそうなります。
だからこそ、一旦は本書の主張通りに価値観の枠組みを外す(4つのメガネを外す)事で、
新しいものの見方やご自身の仕事観を振り返ってみると、思わぬ発見がありそうです。
これから仕事を始める若い人も、就活に取り組む前に一読されるのも有意義かと思います。
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