空飛ぶ機械に賭けた男たち アレン・アンドルーズ著

歴史

空飛ぶ機械に賭けた男たち―写真で見る航空の歴史

空を飛ぶための挑戦の記録

私のような流体フェチにとって、この手の航空史的な読み物は大変な大好物なのですが、やや古い本であるせいか人がたくさん死んでるよってことが生々しく書いてあります。

近頃の文章では、そういう生々しいものは検閲的なところで引っかかって検索除外にされてしまうせいか、あまり見かけなくなりました。

本書は1979年10月に初版第一刷が発行されており、著者近影もパイプを咥えていたりと時代を感じさせる一冊となっています。

この本はたまたま浦和の古本市で見かけ、立ち読みすると同時に購入を決めたほどの本です。

掲載されている写真や飛行機械の図面などは、本文を読み飛ばしてもそれらをじっくり眺めているだけでその技術的な進歩が追っていけるという逸品。

まずは全部の写真や図をじっくり眺めて、それから初めてみるような図や写真の部分は念入りに本文を読み込んでいくという読み方をして行きましたが、それでもざっくりと、どれだけの人が空を飛ぶことに挑戦して散って行ったのかまで把握することができます。

人が空気より重い物体を飛ばすというのは、それこそ重力という自然の摂理に逆らうことに他ならないことであり、大きな危険を伴っていたのだと改めて実感します。

こうした先人たちの情熱と貴重な犠牲、そして技術的蓄積の末に、現在のような航空機が当たり前に存在し、世界中を旅することが容易にできる時代になったと言うわけです。

本書を読みながら、ついこうした偉大なる先人たちの挑戦に思いを馳せてしまう一冊です。

 

流体力学の学徒には特にオススメ

本書は航空機の歴史的発展の過程を綴った読み物として大変な良書です。

そしてその技術的な発展と共に、数式こそ出てきませんが揚力と抗力を分けて考えるアイデアが生まれてきたり、動力以外は航空機としての理論がほぼ完成されたのがわかった時などは、なんだか鳥肌が立つような気持ちになります。

流体力学なんていうマニアックな領域を、今の情報社会真っ只中でも専攻するという変わった人にとっては、こういった伝統的な技術の発展過程を追いかけることも、ひとつの息抜きになるのではと思います。

そして航空史を振り返ると言うことは、それはそのまま流体力学の発展の歴史とも被ってきているものですから、自分の専門分野の知見を深めることになるのです。

『航空力学』などというタイトルの教科書的なものを読むのもいいですが、そういう本は教科書的に、簡単な内容から進んでいくため技術的な発展という人間の営みの気配が希薄になってしまいます。

一方で時間の経過と共に次第に発展していくさまを詳細に記述していく内容では、まさに人間が試行錯誤し、時に危険を顧みずに新技術や新理論の証明に命を賭ける様子を窺い知ることができます。

技術発展とは貴重な犠牲の上に成り立つものだったのです。

そういう技術屋の、いわば「暑苦しくて汗臭そうな」部分の熱さ、情熱を、是非こうした本からも感じ取っていただければいいなあと思うので超オススメしておきます。

 

今の”当たり前”が作られた歴史を知る意義

現代社会は、人類史上これまでにないほど恵まれて豊かな時代だと言われています。

環境問題や各地の紛争はあれど、事実を見ると全体の幸福度は確実に増えています(『FACT FULNESS』より)。

そんな世界に住んでいると、いつしかこの最高に恵まれた時代、恵まれた環境が、当たり前のものとなり、それを維持することがおざなりになる恐れがあります。

また、今の状態が標準となると、そこから少しの落ち込みでショックを受けたりします。

そうなる前に、こう言う本で予め今の便利さは当たり前ではないんだよって言うことを認識して、先人たちのまさに命を賭けた挑戦や技術の発展を心の片隅に置いておくこと。

そうすることで、今ある日常にも感動ポイントを見つけることができるようになるし、今当たり前に存在する最新技術の恩恵に対しても畏敬の念を持つことができるようになります。

ではそれの何が大切なのかというと、まず自分が使っている文明の利器に対して、正面から向き合おうと言う気になります。

これは完全な理解には至らないかもしれませんが、その仕組みや利用方法などに思いを馳せ、その発展に寄与できるということです。

これは情報化社会が発展するにつれて、特に顕著になってきました。

また、先人たちの努力に敬意を払うことで、それを使わせてもらっている私たち自身もさらなる発展に寄与できるようになるし、そのような心持ちを持てるようになると言うことです。

さらには一つのモノに対する思いを深めていくことで、その裏側にある多くの人々のつながりを認識することができ、自分の精神安定をもたらす他、他人に対する気持ちも寛容であたたかなものになっていくのです。

ただの古い技術書でしょ、とあなどることなかれ、こうした古い本には、世界の人々と深いところで、心と心をつなげるためのトレーニングにもなったりするのです。

こういう話はスピリチュアル系のことが好きな人たちがしがちなものですが、物づくりに携わる人たちは常に多くの人との協力関係が必須となるため、意外とこう言うことにも気持ちが無ていたりします。

もしこの本や他の古典的技術関係の本を読む機会が会ったら、少しだけ技術発展に命がけで貢献してきた偉大なる先人たち、名もなき技術者たちへと思いを馳せてみて下さい。

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