人間の性はなぜ奇妙に進化したのか

人間の性はなぜ奇妙に進化したのか 

ジャレド・ダイアモンド 著、長谷川寿一 訳

人間を動物の一種として考察した本

私たち人間は、動物の一種であることを忘れがちですが、
こうした生殖に関する切り口から考察するとき、私たちもまただ動物であると
認識を新たにすることができます。

本書は性のあり方についての切り口から、進化生物学者である著者が面白くかつ、
わかりやすく説明している本です。

なお、原題の「Why Is Sex Fun? :The Evolution Of Human Sexuality」は大いに興味を
惹かれますが、訳者が原書を輸入しようとした際にポルノ扱いされ、アメリカの書店に
「貴国では通関できない可能性があるため送れない」と言われたそうです。

実際、ポルノではなく人類の性を通じて近縁種との比較を行う、極めて真面目な学術書です。

 

アレはなんで楽しいんでしょう?という考察

口にするのが憚られるアレですが、なんで楽しいのかを考えたことがある人は
実際にそんなに多くないのではと思います。

コトに及ぶにあたり、そんなの考えてる暇がないわけです。
生物として最重要課題とされている生殖機会をみすみす逃すわけにはいかないからです。

あえてそこに注目して、真面目な研究として形にした著者の手腕はさすがです。

本書の内容としてはタイトル通り、
ヒトの性についての考察です。

ですが、その理解を助けるために近縁種であるチンパンジーやゴリラ、ボノボなどについても
記述があります。

それぞれについての生殖活動を考察すると、三者三様の形態が判明します。
乱婚型であったりハーレム型だったり。はたまた一夫一妻型の種もいます。

そのような分類の上でいうと、人間はなんなの?という事になりますが、これは
倫理的に非常に難しい問題を孕んでいると言えます。
人間についての分類ももちろんなされています。

それは生き残るために有利に働いたからこそ、今の形になっているのは間違いありません。

人間の本来の生殖形態とは?

人間は人目をはばかり隠れてコトに及びますが、
進化上、そうすることが遺伝子の伝達に有利になるということです。

結論として人間の生殖形態は「マイホームパパ説」「多数の父親説」と
二つの考え方が提出されています。

人間が自らの生態について考察するとき、私たちは個人差や好みの問題、
さらには倫理観などの価値観にも影響を受けます。

しかし純粋に生物としてみたときに、どういった形態を持つ事になるのか?
非常に興味深いテーマでもあります。

そしてこのテーマの結論によっては、倫理的に認められない行為を正当化しうることも
想定されます。非常にデリケートな問題とも言えますね。

内容まとめ

本書では、そうした生殖に至る形態や、人間の女性が自身の妊娠が自分でわからない理由、
毎月生理が起こるようになった理由なども語られています。

一般的に動物は発情期がありますが、人間は常に発情期であるとも見ることができる…と
いう考え方もあるようですね。

そういう観点を得ると、やはり人間は動物の一種といえどもかなり特殊な存在となっている、
という風に思わざるを得ません。

純粋に学問的な関心で読んでも楽しいですが、中高生が日常的な興味から、
進化生物学に興味を持つきっかけになりそうな本でもあります。

 

この本で得られること

本書は私たち人間の生殖について注目し、その存在についても考察した本です。

生きていく上で欠かすことのできない「性」についての問題を、真面目に、かつ
ユーモアを交えて説明する本書は、タブー視されているテーマについての深い洞察を
もたらしてくれます。

社会生活を営む上で、本書のような知識は必要とされていないかのような風潮ですが、
性の乱れや商品化が進む現代社会において、このような知識を広めることで、
一旦自分たちの存在や性に関する認識が改められるきっかけになることでしょう。

何よりも、社会の中で性について語ることがタブー視されている中で、
学術的に真面目な観点から語られている本書は、現代社会に対する問題提起としても
活用されてしかるべきでないかと思えるものです。

 

この本をオススメしたい人

人間存在の本質に迫りたい人。一見くだらないテーマだと切り捨てられがちな「性」ですが、
人間が生まれるためには必ず通る行為です。

本来、尊い行為であるにも関わらず、宗教的な制約や社会的通念によって、汚らわしいものと
いった見方がなされてきました。

社会的に語ることがタブー視されるテーマなだけに、そういった話題に嫌悪感や忌避感を
感じる人にこそ読んでみてほしい本です。

また、性に関して興味が生まれるであろう中高生に対しても、真面目に性に対して向かい合う
きっかけとなる本でもあります。こういった本が学校などで取り上げられることで、
性の商品化や安易な性行為に結びつかないように、健全な性教育へと繋げるきっかけとして
ほしいとも願います。

書評まとめ

実は興味がある、という人が多そうなテーマですが、社会通念上、このようなテーマを
大々的に語ることはタブーとされています。

しかし著者のようなすでに実績のある大学者が著す事によって、口にするのが憚られる
性に関するテーマであっても、ごく真面目に、そのテーマを深めていくことができます。

そういった意味でも本書の存在意義というのは、社会にもたらす影響も含めて、
偉大な著作であると言えるでしょう。

本書を通じて人間の性について理解し、そして自分たちがどのように振る舞いがちなのかを
改めて認識することで、倫理的にも叶った行動を取れるよう自省することも可能となります。

ぜひ広く色々な人に読んでほしい、とても素晴らしい名著です。

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