孤独のチカラ 斎藤 孝 著

宗教・思想・哲学

孤独のチカラ (新潮文庫)

孤独こそ力の源泉

SNSをはじめとした繋がりが発達し、寝る時以外は誰かと繋がってる現在は、「孤独」を忌むべきものとして捉えられているように感じます。

私は孤独であることは自分にとって必要であると感じ、意識的に孤独である時間を確保するように努めてはいますが、絶えずスマホには他者からのコミュニケーションの要求が届きます。

現在、他者との繋がりを重要視し、集団から浮いたり爪弾きものにされないために不本意ながらコミュニティに合わせている、それによって苦しんでいるという人が多いのでは無いでしょうか。

本書は、人間には本来大切な要素、自己へ「沈潜」し、内面を磨き上げるプロセスである「孤独な時間」に再び注目するために、いかに孤独が大切で必要なものであるのか、また孤独がもたらす膨大な果実についての説明がなされています。

もはや一種の哲学書の域に達しているのでは無いか、そう思わせるほどの深みが、本書は纏っているように感じます。

 

読書論の著者というイメージ

本書を書いている齋藤孝氏は、書店でよく見かける「読書法」関連の書籍をたくさん出版しているので、お名前は知っておりました。

初めこそ読書法の斬新な視点に感銘を受けて買い集めていましたが、さすがに大量のご著書に食傷気味となってしばらく離れている状態でした。

そんなとき本書『孤独のチカラ』という、これまでの著書とは一風変わったテーマの本を書かれていると気になり手に取りました。

「孤独」という、私が求めてやまないものであり、一方で周囲に理解されにくいもの、というテーマを扱っていること、またこの著者が「孤独」を扱うことに対する興味が強烈にわきおこってきたために衝動的に購入したのが本書を読むきっかけです。

著者自身が本書でも語っておりますが、ご本人としては深い孤独の期間を過ごしているにもかかわらず、その雰囲気が出ていないと悩まれているようです。

しかし私のように見るからに暗い、翳りを纏っていると言われる者からしたら、深い孤独をうちに秘めつつも、”静岡の青い空”のようなさわやかさを放てる著者は、逆に尊敬の眼差してみてしまうなあ、とも感じるのです。

 

読むタイミングによって得られるものが変わる

この本は、自分の精神状態によって触れる対象から汲み取ることができる感情的ゆらぎが変わってくる部分が大きいのかな、と思う内容の本です。

私は現在、無職で1年以上過ごし、どこにも属さないまさに孤独な状態です。

そして社会のとの繋がりをそろそろ持ちたいとも思い始めている状態でした。

そんな時にこの本を手に取り(精神状態がこの本を求めたのでしょう)、読むことができたことで、これまでの自分のやってきたことは決して無駄では無く、これから飛躍するための充電期間であったのだと思うことができました。

一方でそこまで孤独に対して当事者意識がなく、なんとなく孤独が大切だとは思っているがそこまで切羽詰まっていない状態で読んだ場合、そこまでのインパクトがあるのかどうかは謎です。

読む人によっては、おっさんが若い時にした苦労の自慢話…と受け取る可能性もなくは無いのだろうなとも感じたのは正直なところ。

人によっては自分の中にある孤独性を見ないように目を逸らしていることもあるでしょう。

そんな人にとっては、おっさんの回想一人語りに見えるのでは無いかと思います。

そう入ってもこのタイトルとこの表紙、これに反応して購入して読むほどの人は、そもそも孤独が必要だとわかっていて、それでも社会から理解されない葛藤の中にいるケースが多いはずなので、しっかり琴線に触れる人が買うのだろうとも思います。

で、私はしっかり琴線に触れたのでこうして感想文を書いています。

この著者に対する印象がガラリと代わり、またこの人が書いた各種読書論や言葉に関する著書を再読したいと思うと同時に、こんな深い孤独を抱え、そしてそれをチカラに転嫁した人のエネルギーを感じたいと思うのでした。

文庫の中でも安い部類(490円+税)であろう本書、そんな本がここまで人に強い影響を与えるということを再認識させるすごい本でした。

孤独が怖くてつるんでいる「その他大勢」と化した諸君にこそ読んでもらいたい一冊。

 

奥付

『孤独のチカラ』新潮文庫 さ-54-6

平成22年10月1日発行

令和2年5月25日八刷

著者 齋藤孝

発行者 佐藤隆信

発行所 株式会社新潮社

ISBN 978-4-10-148926-1

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