銃・病原菌・鉄 1万3000年にわたる人類史の謎 ジャレド・ダイアモンド 著

銃・病原菌・鉄 1万3000年にわたる人類史の謎 

ジャレド・ダイアモンド 著

1万3,000年前に渡る人類史の謎の解明

本書は、文明がなぜ多様かつ不均衡な発展を遂げたのかを、
著者の研究領域である進化生物学、生物地理学、鳥類学、人類生態学などの知見を
統合した独自の視点で解明していく内容です。

すごく売れた本なのでそれなりに面白いんだろうという期待に満ちた気持ちで
読み進めていきますが、如何せん分量が鬼のような本です。
面白くてドンドン読める、とは行っても私も通読するのに1週間くらいかかった大著です。

読むのに労力がいるとしても、人類の文明史や文明の衝突、現在の世界がこうなった理由が
すごい納得感と共に得られます。
大人の教養として、世界情勢このような姿になった理由の1つの説として持っておくべき
知識でしょう。

著者について

1937年ボストン生まれ。ハーバード大学で生物学、ケンブリッジ大学で生理学を修めるが、やがてその研究領域は進化生物学、生物地理学、鳥類学、人類生態学へと発展していく。『銃・病原菌・鉄(上)(下)』(倉骨彰訳、小社刊)はそれらの広範な知見を統合し、文明がなぜ多様かつ不均衡な発展を遂げたのかを解明して世界的なベストセラーとなった。カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部生理学教授を経て、現在は同校地理学教授。アメリカ科学アカデミー、アメリカ芸術科学アカデミー、アメリカ哲学協会の会員にも選ばれている。アメリカ国家科学賞、タイラー賞、コスモス国際賞など受賞は多く、『銃・病原菌・鉄』ではピュリッツァ-賞を受賞している。邦訳書は上記のほかに『セックスはなぜ楽しいか』(長谷川寿一訳、小社刊)『人間はどこまでチンパンジーか?』(長谷川真理子・長谷川寿一訳、新曜社刊)がある。

-amazon「著者について」より引用-

広範な著者の知識と、それを支える膨大な研究活動によって、本書の記述は生まれています。
読み進める中で、この人の専門はなんだっけ…と思うくらいに色々な分野に精通してます。
何よりも著者本人が楽しみながら研究をしているのが伝わってきて、
読みながら羨ましい気持ちにもさせられます。

本書の内容

文明を分かつ鍵、それは「環境」

本書は、文明により征服者・被征服者となった理由として、
「環境」
が最も大きな理由であると説きます。
今でこそ公的に、堂々と口にすることは憚られるようになりましたが、
未だに世界は人種による差別が残っています。
口には出さずとも、白人至上主義であったり、欧米優位の価値観が世界には
共有されている「雰囲気」があります。
日本の中で見ても、なんとなく欧米産のものは高価で品位があるようなイメージ。
輸入車でいうと、欧州車に乗っているとお金持ちだなんて思われがちです。
見栄っ張りが無理して乗っていることも多々ありますが。
ともかく、なんとなく欧米的なもの=優れているもの、という印象が、
どうしても付いて回ってしまうのです。
しかし、です。
著者も言及していますが、果たして欧米の人たちが、他の種族よりも
優秀だから世界を支配する形になったのか?という疑問があります。
もしも優秀ならば、出身地を取り替えた場合、
例えばヨーロッパとアメリカ大陸の人種を入れ替えた場合、
アメリカからヨーロッパへと銃と軍馬を持って侵略できたのかということです。
本書では、それは絶対にありえないと言います。
なぜならそれは、環境が発展の可否や方向性を決めるから、です。
今の世界は、必然的にそうならざるを得なかったから、こうなっているのです。

おおよそ13,000年前に分岐が始まった

まず、東西に広がるユーラシア大陸では同一緯度の地域が広がっており、
このことは、別の地域の作物でも、環境が似ていて育て易くなります。
狩猟採集生活から抜け出した人々は、各地で定住し農耕を始めますが、
農耕や牧畜では、従来からは思いもよらぬ病原菌が人間に感染します。
もちろん人が死にますが、生き残る人もいて、次第に免疫が出来ます。
また、農耕民は食物供給が安定化、大規模化→人口爆発が起こります。
すると、国家の萌芽とも言えるような現象が現れます。
すなわち、
人口爆発→非生産民の出現→職業軍人の発生→軍隊の大規模化→殺戮集団の誕生。
国家間の大規模戦闘が生まれる背景には、
人類の定住化とそれに伴う農耕の開始が深く絡んでいます。
こうしたことが、約13,000年前から進化し始めました。
一方、アメリカ大陸も同様のことが起こりますが、ややスタートが遅れます。
アフリカ発の人類が大移動をつづけ、アジアを経て約1万年前くらいに、
やっとアメリカ大陸へと住みつきます。
南北に長いアメリカ大陸は、別の地域の作物が育てられません(気候が違いすぎる)。
そしてアジアを経て移動してくる人類は、
アリューシャン列島からアラスカ入り。

現在のイヌイットの人々が農耕をしないように、移動してきた人類も狩猟採集民方式の生活。

農耕民はわざわざ厳しい環境を超えずとも定住できていますし、
アラスカを超えようとも思いません。
だから農耕技術の伝播はかあり得ません。
そこでの人類にとっては、生き残る知恵(=狩猟採集のスキル)が重要です。
こうした環境上の条件の結果、南北アメリカ大陸では狩猟採集が主。
良くて小規模農耕がかろうじてできたかどうかというレベル。
したがって人口が増えず、軍隊もできません。
さらには当時のアメリカでは、氷河期で大型哺乳類が絶滅した後です。
つまりは家畜になりうる動物の種類が少ない。
戦争に利用できる動物も必然的に少なくなります。
農耕も家畜も中途半端。
そして幸か不幸か、病気もなく平和に過ごしていました…。

文明の衝突、一方的な殺戮・搾取

このような文明の進歩する要素に絶対的な違いがある両者ですが、
進歩が早ければ争いも激しく、そして戦う技術も発達します。
歴史的に戦争だらけの欧州では、世界に先んじて世界帝国となる国々が出てきます。
そして西暦1492年。ついに好戦的なユーラシア出身の民族にアメリカ大陸が見つかります。
当時、アメリカ側にも大帝国が2つありました。
しかし、それすらも150人足らずのスペイン兵によって滅亡させられてしまいます。
征服されてしまった側でも、数万人の屈強な裸の男たちが待ち構えていました。
武装と言えるものは棍棒くらいなもの。
銃はおろか剣(金属製の刃物)すらなかったと言います。
黄金は潤沢だったのに不思議です。
いくら武器が棍棒でほぼ裸であっても、
150人(銃+鉄の鎧)vs数万人(棍棒+半裸)の戦いで、150人のほうが勝ってしまう。
これでは戦いであるどころが、もはや一方的な殺戮です。
しかし実際にはもう一つの要素がありました。
それが本書のタイトルにもある「病原菌」です。
主にアステカの兵士は天然痘にやられたと言います。
病原菌の免疫があるかないか。
それは、農耕や牧畜をどれだけ大規模に長期間やってきたか、に影響します。
定住して安定的な生活をするだけではなく、
人間以外の生物との長期的な接触が、副次的に人類を強くしているのでした。

アフリカでも同様のことが起こった

アフリカは人類揺籃の地と言われています。
従って、進化する時間としては最も長く、有利な地理のはずです。

そんなアフリカでさえ、ユーラシアの民に征服されてしまいました。
アフリカも南北に長い大陸構造であり、さらに中央にはサハラ砂漠という
不毛の大地が広がっています。
広大な砂漠が、文化や技術の伝播を遮り、アメリカ同様の悲劇が起きます。

しかしアフリカにはアメリカとは異なり、多種多様な植物がありました。
ところが、投入する労力に対して得られるカロリーの大きな作物が無く、
家畜化可能な大型哺乳類がいなかったのです。

小規模な農耕は行われていました。
そしてアフリカ内部ではお互いに征服したりされたりという歴史があったようです。
これは言語学的考察から明らかだと言います。

感染症に対して脆いアフリカ

アフリカというと、致死的な感染症が新たに発生するケースが最近多いですが、
それは最近に限った話になります。

歴史的に大規模農耕を実践してこなかったため、ユーラシアのように病気への耐性が
獲得できていなかったのです。

だからこそ、大規模な農耕や森林の開拓などが進んでいる現代、人類が未知なる病原菌に
冒されてしまうという事態が頻発していると言えます。

そういった状況ですからヨーロッパの国々からもたらされる病原菌は、当時のアフリカの人々
にとっては致命的な伝染病をもたらします。

加えて戦闘経験の豊富なヨーロッパ系の国に対して成す術がなく、植民地だらけの状態へ
分割されていきます。

本書の内容まとめ

世界の5大陸のうち、
①ユーラシア大陸のみが広範囲で同一の作物を栽培できたこと
②家畜化に適した大型哺乳類の種類が豊富だったこと

金属利用や技術発展の礎になった

人種の優劣はありません。
純粋に知能の比較となると、
自然に近いところで生活している人の方が高いくらいだそうです。

それは、毎日を生きるために考え続けているから。
結局、環境によって進化の方向性が決まるということが言えます。

一旦、農耕を始めても、農耕不能な場所に来れば狩猟採集生活に戻ります。
一人で森の中にいたら、そこから農耕を初めて作物が取れるまでに、
飢え死にしてしまいます。

だから再び狩猟採集生活に戻らざるを得ないのです。
そういった意味で環境は、人類が進化するときの方向性を決める重要な要素なのです。
逆に言えば、環境に合わせて人類が生き残るために知恵を絞り、適応してきたとも言えます。

本書の結論として、もしもこれまでの歴史が何度繰り返されても、
結局はユーラシア大陸の誰かが他の大陸を征服することになります。
これは気候や地理的要因から、不変なことのようです。

かつてウィリアム・マクニールという有名な歴史学者が書いた
「世界史」という本でも、似たような考え方が紹介されていました。

本書は、歴史学者ではない人物の視点で書かれた書物、というところが
本書の存在理由でしょう。

本書をオススメする人

本書は人類が辿ってきた歴史を、環境や文明の面から考察した、新しい視点による
考察となります。
故に広く世界で受け入れられ、多くの人が読むことになったのでしょう。

多くの人が読んだということは、大人の共通認識として知って置く必要があるとも言えます。
すなわち、社会にいる大人全員が読むべき本である、と言えるでしょう。

 

この本から得られること

本書は、かつての支配者・勝者である欧米系人種の優越性を否定しうる根拠を示した本です。
その意味では、私たち日本人が無意識に劣等感を抱いている欧米諸国に対する心理的支柱とも
なりうる、大きな存在意義を持った本とも言えます。

本書を通読することで、人類は大した差はないんだということを、きちんとした根拠を持って
認識できるようになるはずです。

生まれた場所によって有利だったりする、という視点がもたらされたことによって、
今、どうにもウダツが上がらないと思う場合に引越しなど環境を変えてみる、
なんて発想になったりしませんかね?

環境は我々が思っている以上に重要です。
環境を理由にできない言い訳をするならば、
いっその事引っ越して環境を買えてしまいましょう!

 

書評まとめ

非常にボリュームのある読み応えのある本でした。

その分、主張する内容と、その根拠がしっかり示されているので、
一つずつ納得しながら読み進めることができます。
現代の名著となる本でしょう。

そして本書が名著と言われる所以が、これまで常識のように世界を覆っていた
欧米優位の価値観を覆しうる主張を展開しているということです。
結局、人類は皆大差ないんだということ。

これを理由に新たな争いを生む必要はありませんが、
世界中の人々が、この本のメッセージ性を受け取り共通認識として持つことができたら、
この本で触れられている歴史的な悲劇を繰り返さずに済む世界が実現できるでしょう。

それくらいスケールの大きなテーマですね。
近年稀に見るほどの良書です。

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